経営者にやる気があれば組織はすぐに変わる

日本はボトムアップ型の企業文化なので、経営者が組織を変えるのは難しいという指摘もありますが、これについても疑ってかかる必要があるでしょう。

新型コロナウイルスによる感染拡大が本格化した2020年1月、国内ネットサービス大手のGMOインターネットは、感染から従業員を守るため、他の企業に先がけて国内従業員の9割にあたる4000人を在宅勤務させました。

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他の企業の決断がかなり遅れたことを考えると、同社の実行力には目を見張るものがありますが、在宅勤務になかなか踏み切れなかった他企業の社員は、同社の社員よりも著しく能力が低いのでしょうか。そんなことはないはずです。

同社が瞬時に在宅勤務に移行できたのは、経営トップのリーダーシップによるところが大きく、GMOにおけるこの事例は、有能な人物を経営者に据えれば、組織は劇的に変わるということを如実に示しています。

もし多くの企業で有能な人物をトップに据え、強いリーダーシップを発揮させることができれば、ほぼ確実に従業員の賃金は上昇し、それによって日本の消費は大幅に拡大するでしょう。その理由は以下の通りです。

近年は経営学が高度に発達し、どのように経営すれば高い付加価値を得られるのか(つまりどうすれば儲かるのか)という方法論はほぼ確立しつつあります。

一部からは弊害を指摘する声も聞こえてきますが、それでも諸外国において、経営学の定石にしたがって意思決定を行う人物をトップに据えるケースが多いのは、こうした方法論を活用すれば、特殊なカリスマ性がなくても、ある程度までなら適切に企業をマネジメントできるからです。

実際、大規模な赤字を垂れ流していたシャープやソニーといった企業は、経営者が変わっただけで、あっという間に業績を回復させることができましたが、ソニーを立て直した平井一夫氏やシャープ再建を託された台湾鴻海精密工業出身の戴正呉氏は何か特別なマジックを使ったわけではありません。彼等は経営学の定石にしたがって、淡々とトップとしての役割を果たしたに過ぎないのです。

400万人も無駄遣いしている

多くの日本企業において、こうした有能な人物がトップに就任すれば、事業内容を見直し、付加価値が低く薄利多売となっている事業を整理する一方で、付加価値が高く、今後の成長が見込める分野への投資を強化していくことでしょう。仮に組織内に抵抗があったとしても、有能な経営者であれば改革を断行するはずです。

そうなると、組織内における人材のミスマッチがより顕著となり、人材が過剰となっているところから、人材が足りないところへの移動が促進され、社会全体で雇用の流動性が高くなるはずです(つまり転職が活発になります)。

実は現時点においても、日本の企業組織には、事実上、社内で仕事を見つけられない、いわゆる社内失業者が400万人も存在しているといわれます(リクルートワークス研究所調べ)。これは企業に雇用されている正社員の1割にも相当する話であり、日本は壮大な労働力の無駄遣いをしているのです。