世界全体で1割の法人税が失われている

多国籍企業と国内企業で課税対象利益に大きな違いが生まれる主要因は、多国籍企業の海外子会社がきわめて高い比率でほぼゼロの課税対象利益を申告(多国籍企業は海外子会社を通じてタックス・ヘイブンを活用した租税回避の機会を十分に利用できるため、課税対象となるべき申告利益がほとんど発生しないことを意味する)している点にある(課税利益ゼロを申告した企業の割合は国内企業の28.6%に対して、多国籍企業子会社は61.1%を記録)。

ここから、多国籍企業がきわめて攻撃的なタックス・プランニングを行っていることが読み取れる(Habu2017)。

多国籍企業の租税回避に関する近年のもっとも重要な研究は、トルスロフ、ワイアおよびズックマンによって行われた定量分析であろう(Tørsløv et al. 2018)。

トルスロフらが、どれほどの規模の利益移転が行われているのかを、各国別に推計した結果を示したのが、図表2である。この表から明らかなように、アメリカを筆頭としてイギリス、ドイツ、フランス、日本、イタリアといった、法人税率の高い先進国から大規模な利益移転が行われていることが分かる。

そして、その行き先が図表2下段「租税回避地」の欄に挙がっているタックス・ヘイブン国であることも明らかである。彼らの推計によれば、2015年には全体として6000億ドル以上がタックス・ヘイブンへと移転されたという。

諸富徹『グローバル・タックス 国境を超える課税権力』(岩波新書)

しかもそれは何と、多国籍企業利益の40%近くに匹敵するという。利益移転先の首位はアイルランドであり、それだけで1000億ドル以上に上る。これにカリブ海沿岸諸国、シンガポール、スイス、そしてオランダが続いている。

こうした利益移転は、当然のことながら国家税収に大きな打撃を与える。図表2の右端の列は、法人税収のうち何%が利益移転によって失われたかを示している。

28%の法人税収を失っているドイツを筆頭に、欧州諸国の打撃が大きいことがここから分かる。日本もまた、法人税収の6%(約3兆円)を失っていることが示されている。世界全体では法人税収の10%が失われている計算になるという。

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