余力を残すアーモンドアイを三冠馬が追う

グローリーと喘いでいるキセキを抜き去り、先頭に立つ。ゴールまで400メートル、300メートル、100メートル、50メートル。

写真=iStock.com/Somogyvari
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ルメールは、「(後ろから音は)何も聞こえなかった。手前を替えたか、息が入ったか。アーモンドアイの上で集中していた」とレース後に語っている。

コントレイルが外から“飛行機雲”のように猛然と追い込んでくる。デアリングは“大胆な戦法”で外に出すのを諦め、内に突っ込む。アーモンドの後ろに控えていたカレンブーケドールも津村の渾身のムチに応えて追い込んでくる。

2400メートル巧者のグローリーも最後の力を振り絞る。

だが、終始インを回り、余力を残していたアーモンドは、コントレイルの上がり34秒3の鬼脚を1馬身4分の1差退けて、栄光のゴールを駆け抜けた。

ルメールが右手人差し指でアーモンドを指す。「アーモンドがナンバー1だ」と。

3着も無理かと思われたデアリングは、カレンと鼻づらを合わせて追い込み、コントレイルとハナ差3着まで突っ込んだのが、見る者に強烈な印象を与えた。

獲得賞金は「ディープ超え」歴代1位の19億円

アーモンドは毎回全力を振り絞ってゴールを駆け抜けるため、疲労でゴールイン直後によろけることもあったが、この日は、見ている限りそんな様子もなく、ルメールを背にウイニングランをしているときも、「勝って当たり前」だと平然としているようだった。

3週前の「天皇賞・秋」では、レース後のインタビューで珍しく涙を見せ、声を詰まらせたルメールだったが、この日は、「エンジョイした」と晴れ晴れとした笑顔だった。

結果的には1番、2番、3番人気で決着し、3強といわれた3頭で決着した。だが、56年という長い競馬歴だけを誇る私には、前評判通り、しかも、2強、3強といわれた馬が順当に来ることなど、下位条件戦ならいざ知らず、GIレースでは“奇跡”といってもいいと思っている。

コントレイルの福永は「一生懸命強い相手に走ってくれた。アーモンドアイは強かったです」、デアリングの松山は「今日に関してはデアリングタクトより速い馬が2頭、前にいたということ」と、グッドルーザーであってくれた。

コントレイルの調教師の矢作が、「勝った馬は強い。これだけの馬に(引退してしまって=筆者注)リベンジできないのは悔しい」といったが、これが本音だろう。

実にGI9勝。獲得賞金はキタサンブラックを抜いて歴代1位の19億1526万3900円。ジャパンカップ1レースの売り上げは今世紀最高の272億円。

アーモンドアイは記憶にも記録にも残る名馬になった。