二度と実現しないであろうレースがあす始まる
「人は馬券を買うとき、自分自身によく似た境遇の馬の馬券に一票を投じる。競馬ファンが握りしめているのは、実は馬券なんかじゃない。自分自身の過去と未来だ」
作家で詩人の寺山修司はこうもいっている。
社会が安定している時は逃げ馬が評価される。ところが、世の中がざわざわしているときは追い込み馬が評価される。それは「形勢逆転」という感じがあるからだと。
阪神淡路大震災の年、神戸を本拠地とするオリックス・ブルーウェーブが優勝した。東日本大震災の夏の甲子園大会で、青森の光星学院が準優勝して盛り上がった。
今年は戦後初といってもいい国難の年である。新型コロナウイルス感染拡大は世界中に広がり、日本も例外ではない。
こういう年は、競馬ファンならずとも、一気に形勢逆転できる追い込み馬に期待を寄せるのだろうか。
11月29日(日曜日)に行われる「ジャパンカップ」の栄冠はどの馬に輝くのだろう。
誇張ではない。このレースは競馬史上最高のドリームレースであり、これからも二度と実現しないであろう“奇跡”の一戦である。
「三冠馬」の3頭が激突する
三冠馬が出ること自体が滅多にない。ご存じだろうが三冠というのは、3歳馬しか出走できないレース、牡馬であれば皐月賞、ダービー、菊花賞、牝馬であれば桜花賞、オークス、秋華賞を勝った馬のことだ。
現在、最強馬といわれるアーモンドアイは牝馬の三冠馬だが、初戦の新馬戦で負けている。今年の牡馬・コントレイルと牝馬・デアリングタクトはともに無敗で三冠馬になっているのだ。
さらに、コントレイルの父はディープインパクトだから、史上初の父子そろって無敗の三冠馬が誕生した。デアリングタクトは牝馬史上初である。
この最強3歳馬と、先日の天皇賞・秋で史上初のGⅠ8勝目をあげた5歳牝馬のアーモンドアイが激突するのだから、競馬ファンなら、この一瞬を目に焼き付けておきたいと思うのは当然であろう。
趣味が高じて競馬連載を担当した編集者時代
ここで私事で恐縮だが、私の競馬歴を書いてみたい。
最初に競馬場で見たレースは東京オリンピックの1964年、シンザンが勝った日本ダービーだったから、かれこれ56年になる。
馬券を買ったのは大学生になってからだったが、毎週末は府中や中山競馬場に朝から出かけていた。
バーテンダー稼業をしていたから、普通の学生よりカネは持っていたが、毎週のようにオケラ街道をとぼとぼと戻り、悪友たちからカネを借りては、また競馬場にカネを捨ててくるという日々の繰り返しだった。