騎手それぞれの戦略は…

コントレイルは菊花賞でルメールのアリストテレスに終始外側にピタリと並ばれ、馬がイライラしたことがあった。

競馬
写真=iStock.com/quentinjlang
※写真はイメージです

デアリングも、オークスでは直線で馬込から出られず、松山騎手が苦労したから、この両馬は初めから、外に出して差す競馬を意識していたのだろう。多少距離のロスがあってもあえて外を回ろうと“熟慮”した結果の作戦のようだ。

全体のペースはスローだったが、1頭だけ別次元の走りをしていたのがキセキだ。手綱をしごいて先頭に立ったため、馬に行き脚がついてしまったのだ。

1頭だけが後続集団を10馬身ぐらい離して逃げる逃げる。

古くからの競馬ファンならここで、3強ダービーのタニノハローモアや2強ジャパンカップのカツラギエースの逃げ切り勝ちのことが頭をよぎったのではないか。

3コーナーでは2番手集団の先頭にグローリーヴェイズが立った。ルメールはインの4番手を淡々と進む。

勝負の4コーナーを回って、コントレイルがやや仕掛け気味に、デアリングの外から上がっていく。

デアリングも一緒に上がっていこうとするが、前に馬がいるため、一瞬、仕掛けが遅れたように見えた。

府中の直線は460メートル。高低差2.1メートルの上り坂がある。

上り坂で馬の状態はある程度わかっている

昔、現役ジョッキーから聞いた。この坂を上って、「1、2、3」と数えてから追い出すのだ。1、2では早すぎて、後ろからくる馬に差されてしまう。

ダービーで1番人気になったハイセイコーにまたがっていた増沢末夫は、坂上あたりで、「いつもと違う」と感じたと話していた。ハイセイコーは2000メートルまでは無類の強さで勝ってきたが、ダービーは400メートル長い。鞍上は馬が苦しがっていることを敏感に感じ取っていた。

坂を上がったところでタケホープとイチフジイサミにあっという間にかわされ、ハイセイコーは3着に沈んでしまった。

坂を上っていくところで、15頭の馬にまたがっている騎手たちは、自分の馬の状態をある程度つかんでいるはずである。

アーモンドは淡々と坂を駆け上がっていく。先頭にはキセキがいるが、すでに浜中の手綱は激しく動いている。

前のグローリーはかわせる。コントレイルとデアリングとはまだ3、4馬身の差がある。

徐々にルメールはアーモンドをグローリーの外へ持ち出す。ここなら芝もインほどは荒れていない。

そう判断した瞬間、ルメールはアーモンドにゴーサインを出した。