レース前から“波乱”の予兆を感じた

ジャパンカップの勝敗は一瞬で決まった。

第40回ジャパンカップ(GI)を制したクリストフ・ルメール騎乗のアーモンドアイ(牝5歳、父ロードカナロア、美浦・国枝栄厩舎、写真手前)。右は3着のデアリングタクト=2020年11月29日、東京競馬場
写真=時事通信フォト
第40回ジャパンカップ(GI)を制したクリストフ・ルメール騎乗のアーモンドアイ(牝5歳、父ロードカナロア、美浦・国枝栄厩舎、写真手前)。右は3着のデアリングタクト=2020年11月29日、東京競馬場

午後3時40分、GIのファンファーレが鳴り、各馬が輪乗りからゲートに入ろうとした。

自国でもゲートインにてこずったことのあるフランスの招待馬、ウェイトゥパリスが先にゲートに誘導された。

だが、なかなか入らない。何人もの誘導員たちが押し込もうとするがゲートの前で立ち止まったまま。

ゲートの前扉を開けてみるが、入る素振りも見せない。

世紀の一戦を前に、馬も騎手も緊張が高まっている。だが、それに水を差すようなパリスの頑なさに、何かしら“波乱”の予兆を感じたのは私だけではなかっただろう。

デムーロ騎手が下馬して、馬だけをゲートにようやく押し込む。

アーモンドアイはゆったりとしていて全く動じない。彼女の姿に富司純子扮する「緋牡丹博徒シリーズ」のお竜姐さんを見るのは私の年のせいだろう。

コントレイルがややチャカツキ始めた。パドックでやや汗をかいていたデアリングタクトが心配になる。

2400メートルの長丁場といえども、勝負のカギはスタートにある。

馬は繊細な動物だ。音楽や歓声に驚いて騎手を振り落とすこともある。馬にプレッシャーをかけないで、スムーズにゲートイン、スタートさせるかが騎手に課せられた最も重要な“使命”である。

だが、そんなファンの心配を払拭するように、ほかの各馬はスムーズにゲートに入っていく。

好スタートを切ったキセキが先頭に

ゲートが開いた。

ロケットスタートを決めたのは2番枠のアーモンドだった。

スタートと同時に、そのまま逃げるのではないかと思えるほどの好スタートに、先行しようと考えていたであろう1番枠のカレンブーケドールの行き脚がつかず、アーモンドの後ろに控える形になった。

コントレイルのスタートもよかったが、デアリングがわずかだが後手を踏んだ。

アーモンドの勢いに押され、逃げるはずのトーラスジェミニやヨシオはアーモンドの後ろから行かざるを得ない。

4番枠のキセキに騎乗する浜中は、スタートが五分なら行くと決めていたのだろう。すぐに手綱をしごいて何が何でも逃げてやると、1コーナー手前で先頭に立つ。

アーモンドはキセキの動きを見ながらインで折り合いに専念。ようやくトーラスやヨシオなどがアーモンドの横に並びかけ、アーモンドを包むように先行集団が1コーナーから2コーナーへと進んでいく。

川田騎乗のグローリーヴェイズがアーモンドの後にピタリと付ける。

デアリングはやや掛かり気味に中団より前に位置する。その後ろにコントレイル。