レース前から“波乱”の予兆を感じた
ジャパンカップの勝敗は一瞬で決まった。
午後3時40分、GIのファンファーレが鳴り、各馬が輪乗りからゲートに入ろうとした。
自国でもゲートインにてこずったことのあるフランスの招待馬、ウェイトゥパリスが先にゲートに誘導された。
だが、なかなか入らない。何人もの誘導員たちが押し込もうとするがゲートの前で立ち止まったまま。
ゲートの前扉を開けてみるが、入る素振りも見せない。
世紀の一戦を前に、馬も騎手も緊張が高まっている。だが、それに水を差すようなパリスの頑なさに、何かしら“波乱”の予兆を感じたのは私だけではなかっただろう。
デムーロ騎手が下馬して、馬だけをゲートにようやく押し込む。
アーモンドアイはゆったりとしていて全く動じない。彼女の姿に富司純子扮する「緋牡丹博徒シリーズ」のお竜姐さんを見るのは私の年のせいだろう。
コントレイルがややチャカツキ始めた。パドックでやや汗をかいていたデアリングタクトが心配になる。
2400メートルの長丁場といえども、勝負のカギはスタートにある。
馬は繊細な動物だ。音楽や歓声に驚いて騎手を振り落とすこともある。馬にプレッシャーをかけないで、スムーズにゲートイン、スタートさせるかが騎手に課せられた最も重要な“使命”である。
だが、そんなファンの心配を払拭するように、ほかの各馬はスムーズにゲートに入っていく。
好スタートを切ったキセキが先頭に
ゲートが開いた。
ロケットスタートを決めたのは2番枠のアーモンドだった。
スタートと同時に、そのまま逃げるのではないかと思えるほどの好スタートに、先行しようと考えていたであろう1番枠のカレンブーケドールの行き脚がつかず、アーモンドの後ろに控える形になった。
コントレイルのスタートもよかったが、デアリングがわずかだが後手を踏んだ。
アーモンドの勢いに押され、逃げるはずのトーラスジェミニやヨシオはアーモンドの後ろから行かざるを得ない。
4番枠のキセキに騎乗する浜中は、スタートが五分なら行くと決めていたのだろう。すぐに手綱をしごいて何が何でも逃げてやると、1コーナー手前で先頭に立つ。
アーモンドはキセキの動きを見ながらインで折り合いに専念。ようやくトーラスやヨシオなどがアーモンドの横に並びかけ、アーモンドを包むように先行集団が1コーナーから2コーナーへと進んでいく。
川田騎乗のグローリーヴェイズがアーモンドの後にピタリと付ける。
デアリングはやや掛かり気味に中団より前に位置する。その後ろにコントレイル。