井上も「為替が最も安いところで適宜、部品を調達し、影響を限りなくゼロにしていくのが理想。調達先の多国籍化は課題のひとつ」と強調する。
そんなダイキンのカリスマ経営者、井上の姿を社長の岡野は「人格でも仕事の上でも天才」と評価し、自らは「わずかに補完しているだけ」と謙遜する。井上が“動”ならば岡野は“静”だろうか。旧満州からの引き揚げを経験した辛抱強い性格で井上を支えてきた。
岡野は井上について、彼の高原好きになぞらえ、こんなふうに話してくれた。
「自分には20種類くらいしか判別できない高原の緑色が、会長の目で見ると200種類くらいはあると言う。それだけ感受性が強いということでしょう」
この井上の感受性の強さはコミュニケーション力にも通じると岡野は語る。
「感受性が弱いと人の話を聞き流して見過ごしてしまう。まずは丁寧に相手の話を聞く姿勢からでしょうね。これは三代目社長の山田稔さんをはじめ、ダイキンが長年培ってきた伝統やと思います」
岡野自身も、常に部下の話に耳を傾けることを心がけてやってきた。役職にかかわらず、意見は遠慮なく言う。顔と顔を合わせて議論し、会議では全員が発言。会社の行事にもみんなで邁進する――。
今の時代、「煙たい」とすら思われがちな徹底的なコミュニケーションと会社への帰属意識の育成。このとことん日本的とも思えるやり方が、世界90カ国以上の拠点でも受けつがれるダイキンの流儀であり、強みなのである。
かねてから井上は「人を基軸に置いた経営」を経営哲学としてきた。人材は技術と同じで一度断絶すると復元が難しい。戦略は立てられても、やる人がいなければ始まらない。だからどんなに業績が悪化しても正社員の人員整理はしなかった。
井上は語る。
「協調性があるとか、無難に立ち回る人の評価ばかり高くなる組織になったらいかん。まずはどこにどんな人材がおるか探索しておき、しかるべき時期がきたら、ここぞという場所に配置するんです」