視点を変えた時に空気は消えている

このクラスに在籍していた生徒には後日談があります。ファクトチェックがてら原稿を一部読んでもらい感想を聞いてみたのです。生徒は中学校を卒業し、高校生になっていました。

物江潤『空気が支配する国』(新潮社)

「なにか間違いとかありましたか?」
「ないけど、会話を漏らして三軍に落ちたってやつ、恥ずかしいから変えてください」
「なんで?」
「だって、こんなことで三軍に落ちるなんて話、馬鹿らしいじゃないですか」
「それは中学校の外に出たから馬鹿らしく思えるんであって、当時は深刻だったでしょ? 空気って、その場・その時で生じるルールだから、外から見れば理解不能だったりくだらなかったりするわけ」
「うん」
「ところで、最近は一軍と会ってるんですか?」
「この間会いました。今はみんなハッピーな感じで仲いいです」

この生徒が三軍に落ちたわけではありませんが、今振り返るとあまりに馬鹿らしく思え、恥ずかしさを覚えたようです。教室から離れた結果、当時流れていた空気がくだらない掟に過ぎなかったことに気づいたのです。

どれほど支配的に思える空気でも、一歩外に出てみれば力を失うという事実は、大人にとっても有効な視点です。

その場の空気が、まるで普遍的な法であるかのような錯覚をしがちですが、決してそんなことはないのです。理不尽な空気を変えようとしたり我慢したりするのではなく、居場所そのものを変えることで空気を一新するという手段だってあります。

空気の危険性を把握し、第三の道を進もう

たしかに、空気を読まなければ平穏な日々は過ごせません。多少非合理的に思える程度ならば、大人しく空気を守った方がよいとも思います。空気のおかげで秩序が保たれるというメリットもあります。

一方、空気を読んだら破滅しそうなのに、それでも読んでしまっては病気です。そして、そんな病を患ったがために、大変な事態を招いてしまった過去が日本にはあります。

空気を無視しては生きにくい。しかし、何が何でも空気に従っては危ない。空気を意識することが多くなった今、その危険性を把握し第三の道を進むことが大切ではないでしょうか。

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