子供の世界でも同様です。学習塾の生徒たちに聞くと、学校もまた空気に支配されていることがよくわかります。近年よく話題になるスクールカーストを支えているのも空気だ、と考えるとこの不思議なシステムが理解しやすくなるでしょう。

時として自分自身も縛られる

学校の話に入る前に、この空気について理解するうえで役に立つのが、評論家の山本七平の考えです。山本は「実体語」と「空体語」という、大変ユニークな考えを提示しています。

私なりに解釈すると、実体語は「現実そのものを表す言葉」であり、空体語は「掟を守るための言葉」です。

禁止事項を表すピクトグラム
写真=iStock.com/winhorse
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例えば、戦時中「日本は戦争に必ず勝つ。敗戦の可能性を口にしてはならない」といった空気がありました。が、戦争が進むにつれ、戦況の悪化という名の現実(実体語)が見えてくると掟の妥当性が危ぶまれます。敗戦が迫ってきたのですから当然です。

ところが、ここで掟を守るかのごとく「欲しがりません、勝つまでは」「一億玉砕」といった空体語が、どこからともなく生じます。こうした言葉が、まるで厳しさを増す現実に蓋をするかのような働きをし、掟は守られてしまうわけです。このことから、敗戦のようにどんな空体語でも擁護できない現実(実体語)が現れないと、なかなか空気が消えないことも分かります。

3.11以前の原発立地地域でも同様のことが起きました。原発のリスクが報じられても、地域住民自らが空体語を発することで「原発は安全。事故の可能性を口にしてはならない」という空気が守られたのです。電力会社の思惑通りに事が進んでいるように見えます。

ところが、空気が地域住民のみならず、電力会社をも拘束しだすという予期せぬ現象が生じます。原発は既に絶対安全だという掟があるため、追加の安全対策を取ることが論理的にできなくなっていったのです。

法のような明確な掟であれば、誰に・いつ・どのような掟が課せられるかが明らかなので、こんなことは起きようがありません。つまり、これは曖昧な掟である空気だからこそ起きる現象です。空気を利用して誰かをコントロールしようとしても、時として自分自身も縛られることがあるのです。

スクールカーストを支える空気「一軍は善。何をやっても許される」

さて国家や大企業だけでなく、私たちの身近な世界でも空気は暴走します。学習塾の生徒が通うクラスのなかにも、空気によって支離滅裂な事態が発生したケースがありました。

例えば、スクールカーストが強い力を持ったクラスです。スクールカーストとは、一軍・二軍・三軍といった、生徒たちに与えられる格付けのことです。このランクに応じてクラス内での発言力や扱いが変わってきます。