空腹によるドーパミン誘導を「勉強」に転用する

これまでは、ボトムアップのモチベーションを抑制し、トップダウンのモチベーションを高めようという考え方が主流だった。それはいまでも有用だが、他の方法も台頭してきた。それは、ボトムアップのモチベーションをトップダウンのモチベーションの栄養に転用する方法だ。

先ほど例に挙げた「お腹が空いている」状態のときは「食べ物を食べたい」というボトムアップのモチベーションが働いている。このとき、脳内ではドーパミンが大量に作られていると推定される。モチベーションのベクトルはともあれ、脳内でドーパミンが作られている状態が現象として存在するので、その状態をうまく活用するのだ。

具体的なケースとしては、空腹によるドーパミン誘導を「勉強」に「意識的に」振り向けることができたとしたら、学習に対するパフォーマンスは高まる。これは、サブリミナル的な実験をしながらドーパミン誘導をすると、実際に記憶定着が高まる結果が得られる研究(※)の応用である。

※出典:Gruber, M. J., Gelman, B. D., & Ranganath, C.(2014). States of Curosity Modulate Hippocampusdependent Learning via the Dopaminergic Circuit. Neuron, 84(2), 486-496

内村航平選手が1日1食である科学的な理由

たとえば私の場合、ボトムアップ系の欠乏状態をトップダウン系に生かす方法として、大好きなコーヒーを利用する。大好きなコーヒーが目の前にあるのに、見るだけで飲まない。飲みたいと思っているときに、ドーパミンの量は最大値になる。

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ポイントは、まずはこの状態に「気づく」ことが第一段階である。次にその「飲みたい」状態にあるボトムアップのモチベーションを、どこに活用したいのか意識的に誘導する。この「注意のシフト」をトップダウンで指令するのが第二段階である。別の理由で最大化したドーパミンに気づいたときに、自分がいまやりたい仕事に意識を向けることで転用するのだ。ドーパミンが出ている状態は変わらないので、うまくいけばドーパミンの効能をやりたい仕事に活用することが期待できる。これは訓練によって可能になる。

少し空腹感があるときのほうが、仕事や勉強の効率が高い感覚をお持ちの方も多いのではないだろうか。ドーパミンが前頭前皮質に作用し、集中力を高めるからだ。空腹状態のドーパミン性を、自分の意図した対象にうまくシフトできたなら、集中力の高まりも期待できる。

体操競技の内村航平選手は、1日1食しか食べないそうだ。あまり食べないほうが集中できるという。そういうアスリートも多いが、これは理にかなっている。