トランプ&バイデンの見えにくい違い

トランプとバイデンの主張がどれだけ異なるかご存じだろうか? トランプのコロナ感染が発覚したことを受けて、今や最大の関心ごとはコロナ対応となっている。その両者の姿勢は対照的だ。トランプはコロナ予防を前提とした経済活動優先を強調しているが、バイデンはコロナの感染抑制が第一義である。徹底的に国民の外出を制限したニューヨークの姿勢に近い。

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ただし、経済政策の面では両者の共通点もある。

バイデンは「Buy American」の主張に合わせて、アメリカ製品の購入を促進するために4000億ドルの予算を投入すると公約に掲げている。上院議員時代に雇用の海外流出につながると批判を浴びたNAFTAを支持した反省もあってか、アメリカ製の素材やサービス、研究・技術開発にも3000億ドルの予算を投じる構えだ。トランプ減税で引き下げられた法人税は21%から28%に引き上げ、個人の所得税の最高税率も引き上げ、アマゾンやアップルなどへの大企業への課税強化によって、そのための財源を捻出するとしている。

一方のトランプは10カ月で1000万人の雇用創出を掲げ、その雇用を維持するために法人税の減税やアメリカ製品に対する税控除などを掲げている。バイデンが富裕層や企業への増税により低所得者や中間層への再分配を目指すのに対して、トランプは富裕層や企業に対する税制優遇で雇用の維持と賃金アップを促進するという姿勢なのだ。

もちろん、バイデンがグリーン・エネルギーやヘルスケア、介護、教育分野への投資を推進し、トランプは製造業やエネルギー産業を下支えするという対象の違いもある。バイデンはトランプが離脱を決定したパリ協定への即時復帰を明言している。トランプが保護貿易主義の維持を明言しているのに対して、バイデンは関税引き上げの弊害を批判材料にしているという違いもある。だが、バイデンも「中国依存」には懸念を表明している。

キューバとの関係回復をこきおろすトランプ

バイデンの「Buy American」は実にトランプ的である。トランプも「バイデンは私の政策を盗んだ」と主張している。総合して見ると、経済政策ではアプローチの仕方と資金の投入先は異なるが、雇用創出、所得の引き上げ、国内生産の促進、中国依存の脱却などの共通点がある。

両者の主張が大きく異なるのは、移民政策と外交・安保政策、そしてオバマケアに関するものだろう。トランプが税金を財源とする福祉サービスからの不法移民の排除を公約に盛り込んでいるのに対して、多様性を求めるバイデンは不法移民の市民権獲得のためのプロセスの確立や中東・アフリカからの入国制限即時廃止を盛り込む。

一方、バイデンがアメリカのリーダーシップを発揮するためにもNATOにおける同盟関係を強化すべきとするのに対して、トランプはNATOの存在意義を疑問視し、個別の国々との連携を優先している。バイデンは移民対策の一環として中米の貧困と腐敗解消を目的とした40億ドルの投資を表明しているが、トランプはこうした行動を「左派の言いなりになってキューバとベネズエラに国民を売り渡している」と批判し、バイデンがキューバとの関係回復を約束したことについてもこきおろしている。

オバマケアに関しては当然、バイデンは拡充する方針だ。そのための医療保険制度には10年間で7500億ドルが必要になる見通しで、これも富裕層への増税で財源を賄う構えだ。対するトランプは1期目にオバマケアの改廃に失敗している。税制改正を通じた「加入義務」の廃止には成功しているが、2期目こそオバマケアの改廃を期すだろう。

そのうえで、より有効で低コストな医療保険制度として“トランプケア”を実現するというのが、トランプの狙いだ。