スキャンダルも放言もくぐり抜け、ついた異名は「テフロントランプ」
メディアもセンセーショナルであるほど、視聴率を稼げるわけで、持ちつ持たれつの共存関係を長らく続けてきた。とにかく、露出をすればするほど、人々の記憶に残り、メッセージを刷り込むことができる。その「知名度」をてこに、ビジネスを拡大し、「億万長者」の虚像を作り出した。
どんなスキャンダルも放言もなぜかくぐり抜けてきたことから、「テフロントランプ」(※) と呼ばれる特異なキャラクター。その「毒を食らわば皿まで」的な居直り方は、人は毒や刺激も慣れてしまえば、麻痺してしまい、問題にならなくなることを知っているからであろう。
※編註:テフロン加工のフライパンと同じニュアンスで、なにが来てもツルンと避けられるようなイメージ。
極限まで許容の閾値を上げるために、あえて、聖人君子は気取らず、ヒール役として、刺激的な言い回しで、人々の関心をかき回し続ける。ただし、暴言、迷言、虚言は繰り返すが、絶対的なNGワードの1ミリ手前でとどまるところが非常に狡猾なのだ。
ここまでなら、単なる悪役・お騒がせキャラで終わってしまうところだが、彼のすごみは、「(ニューヨークの)五番街の真ん中に立って、誰かを銃で撃ったとしても、(彼に)投票してくれる支持者を失うことはないさ」と言いせしめるほどに、熱狂的ファンの心をつかむ魔術にある。彼の魔力を一言で言えば、彼は「いい人ではないが、(支持者を)いい気分にさせる天才」であるところだ。
「逆転勝利の匂い」人をほめちぎり、宗教的トランス状態にする天才
ニューヨークタイムズが、今年3、4月に行われた彼の会見で発した26万語を詳細に分析したところ、その発言で最も多かったのは、①自分をほめる(600回)、②人をほめる(360回)、③人を責める(110回)という結果だった。
「私は最も偉大な大統領だ」「私ほど、○○できる人はほかにいない」……。厚顔無恥にもほどがある自画自賛をひたすらに繰り返すのはおなじみだが、その一方で、彼は支持者や自分に賛意を示す人たちをひたすらにほめあげる。ここがポイントだ。
彼のメインの支持者となっているのが、長年のマイノリティ優遇政策の下で、社会的に割を食ってきたと憤るブルーカラーの白人たちやキリスト教信者たちだ。「われわれの国の忘れ去られた人たちは、もうこれ以上、置き去りにされることはない」「私だけが問題を解決できるのだ」と宣言し、そうした階層の人々の「救世主」「メシア」としてふるまい、洗脳を続けてきた。
政治家など既得権階級を攻撃し、支持者に、革命の参加者のような連帯感やそうしたエリートを叩き潰す喜びを味わわせる。「君たちは遺伝子がいいんだよ」。長年、日の当たらなかった人々にとっては、こんなふうに、力づけ、勇気づけてくれる指導者はこれまでいなかった。そして、彼らが聞きたいことだけをひたすらに繰り返す。
その意味で、彼は優れたマーケターでもある。ツイッターで発信する中で、特にバズる言葉を見つけ出し、繰り返す。「コロナなんて消えてなくなる」「壁を作ろう」。優れたセールスマンは物を売るのではなく、フィーリングを売る、と言われるが、彼は、耳当たりのよい言葉をささやき、「いいフィーリングを売り続ける」天才商人なのだ。
その大切な商談の場が、支持者を集めた集会だ。そこに行けば、まるでお気に入りのロック歌手のコンサートのように興奮し、誰かとつながり、何か大きな意味のあるムーブメントに参加しているような気になる。恐怖や不安をより強く持ちやすいとされる保守層、信仰心が篤く、非科学的な超常現象をも信じる人々であれば、容易に一種の宗教的なトランス状態に置かれても不思議ではない。