高度成長の時代であれば「進め進め」の号令だけで小さな危機を乗り越えることはできただろう。しかし、大きな震災、50年に一度の台風、新しい感染症の蔓延といった想像もできない危機がやってくるようになった現在、自らの弱いところを見つめる勇気がなければ危機の時に地力を発揮することはできない。

むろんトヨタにも平時から、自らの弱さをつねにチェックする原則がある。それがトヨタ生産方式の2本柱のひとつ、「自働化」である。

「トヨタ生産方式の2本柱とは、『異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らない』という考え方(トヨタではニンベンの付いた「自働化」といいます)と、各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する考え方(「ジャスト・イン・タイム」)の2つの考え方を柱として確立されました」(トヨタHPより)

不良品を出さないために徹底していること

トヨタの生産現場ではライン際にいる作業者が異常を発見したら関係者に知らせるために「アンドン(電光表示板)」を表示させる。上司がやってきて、その場で解決するか、できない時はラインを止める。いったん、ラインを止めたら、原因がわかるまでは動かさない。

これは従来の自動車工場では考えられないことだった。アメリカのビッグ3では現場のワーカーがラインを止めたら、クビになっても仕方がないことだったのである。

だが、トヨタは不良品を出さないために、作業者がラインを止める権限を持っている。そのためには作業をしながら目を光らせて異常を見つけ、知らせなくてはならない。異常の顕在化を日常の仕事としている。

多くの会社の人間は異常を顕在化させることを嫌う。自分が仕事をしている間はとにかく平穏無事であってほしいから、異常を見つけたとしても見ないふりをしてしまうことがある。

だが、トヨタでは1本のねじが緩んでいたとしても、それを見過ごすことはない。床に落ちたねじを使うこともない。ねじが落ちていることは異常だから、どこから落ちたのか、なぜ落ちたのかがわかるまで原因を追究する。小さな異常であれ、異常が残ったまま後の工程に製品を流すことは固く禁じられている。

写真=iStock.com/Berkut_34
※写真はイメージです

平時からの危機管理とは何も危機管理の専門セクションを常設し、多数の人員を張り付けることではない。ふつうの仕事のなかで異常を見つけて顕在化させる企業風土を作ることだ。

※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2020年12月17日に刊行予定です。

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