第2次世界大戦後にできあがった世界秩序

戦後レジームとは第2次世界大戦後にできあがった世界秩序のことだ。原爆を投下され、ポツダム宣言を受け入れ、敗戦国となった日本は、先の戦争の総括を自国でしないまま、戦後はGHQの占領政策によって戦前を全否定するような思想教育を施され、憲法を押しつけられた。

太平洋戦争とは何だったのか。アメリカの占領政策は戦後日本の思想体系にどのような影響を与えたのか。日米安保の呪縛はなぜ生じたのか。若い世代のためにもそうしたことを総括すべきだと私は思っている。憲法にしても国民全体で読み合わせをして、自国なりの新しい憲法を作るのは独立国家なら当たり前。日本と同じ敗戦国であるドイツやイタリアは何十回も憲法を書き直している。押しつけられた憲法を後生大事に抱えている国は日本だけだ。

戦後レジームの見直し、脱却という発想自体は非常に重要で、もし安倍前首相がこれに本気で取り組んでいたら、新時代を切り開いたリーダーとして記憶されただろう。

しかし安倍前首相は手を付けなかった。戦後レジームを見直す作業には占領政策や東京裁判、もっと言えば原爆投下の正当性の検証なども入ってくる。これらをアメリカに警戒されて冷遇されると、安倍前首相は手のひらを返した。アメリカ連邦議会で「日本にとってアメリカとの出会いとは、すなわち民主主義との遭遇でした」と歯の浮くような演説をするなど、180度向きを変えて対米従属に戻ってしまったのだ。

私自身は「戦後レジームは見直すべし」という認識だから、アメリカに媚びて戦後レジームに一層からめ捕られたという意味で、評価は0点どころかマイナス100点である。

次に宿願の「憲法改正」である。第1次安倍内閣で国民投票法を成立させ、公明党と与党を組んで選挙を重ねて、衆参両院で憲法改正の発議ができる3分の2の議席を獲得するところまで持ってきた。こうなれば憲法改正に乗り出さない手はないのだが、結局は実現しなかった。

もしかして安倍前首相は憲法全文を読んだことがないのではないかと思う。それぐらい最初から最後まで9条のことしか言っていない。私は改憲派ではなく、自分がアメリカ独立宣言を起草したトーマス・ジェファーソンになったつもりで白い紙の上に憲法を書き直すべしという「創憲派」である。世界中の憲法を研究比較して、30年前から『新国富論』や『平成維新』などの著作でゼロベースの大前版憲法草案を提起してきた。『君は憲法第8章を読んだか』という本では、自民党が12年に発表した憲法改正草案を一つ一つ批判して、どうするべきかを論じている。

そういう立場からすれば、安倍前首相が目指した憲法改正や自民党の12年改正草案はまったく物足りないし、憲法を変えることに対する国民的理解を深めたとも思えない。これも点数を付けるとすれば0点ではなく、マイナス100点だ。