アメリカに近寄れば、中国との距離は開く

外交では、韓国との関係は安倍政権下で修復のしようがないほど冷え切ったし、中国との関係も尖閣諸島周辺での圧力が続くなど決して良くなっていない。「戦後レジームからの脱却」から変節した安倍前首相はアメリカとの関係強化を強調するが、トランプのようなエキセントリックな大統領に媚びを売ってアメリカに近寄れば、中国との距離は開く。

ASEANとの距離は変わらず。本来なら中国に対する牽制の意味からも、良好なASEAN関係を強化する道もあったが、いわゆる九段線(中国が南シナ海での領有を主張するために地図上に独自に設定した9本の境界線のこと)をめぐる問題で日本は中国に遠慮して傍観者になっている。

安倍外交で唯一、高得点につながりそうだったのはロシアとの関係だ。安倍前首相はプーチン大統領と実に27回も会談して、北方領土の返還や日ロ平和条約について話し合ってきた。しかし、話を詰めるほどにボタンの掛け違いの複雑さが露呈して交渉は暗礁に乗り上げ、日本は完全に手詰まりになってしまった。プーチン大統領は親日家だから日ロ関係がマイナスになったわけではないが、またとない大きなチャンスがあったのに実を結ぶことはなかったわけだから、外交的には失敗と言っていい。ということで、悪名高いトランプ米大統領のご機嫌取りに尽くした点を除いては、外交上のポイントも見当たらない。

以上、安倍政権の功罪を多角的かつ論理的に見てきたが、史上最長政権とは思えないくらい“功”を探すのが難しい。そこにモリカケ問題、桜を見る会、河井夫妻の異様な資金をめぐる逮捕劇、黒川弘務検事長の処遇と検察庁法改正、といった首相として罪深い“負の遺産”を足し合わせれば、失われた時間は7年8カ月と長すぎる。

菅新政権の先行きは、小泉内閣、鳩山由紀夫内閣に次ぐ3番目に高い支持率で発足したようだが、本総括で明らかになったすさまじいマイナス点の安倍政権を継承するというのだから、それほど期待しないほうがいいだろう。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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