もう1つ、安倍前首相が政権の最重要、最優先課題に掲げたのが北朝鮮による「日本人拉致問題」である。02年の小泉純一郎元首相訪朝に官房副長官として随行して以来、安倍前首相は拉致問題をてこに総理総裁へと駆け上がって、「安倍内閣でこの問題を解決する」としばしば強い決意を口にしてきた。

しかし、拉致問題はまったく進展していない。真剣に取り組んでいるように見せていたが、実際にはトランプ米大統領に金正恩朝鮮労働党委員長への伝言を頼んだだけ。最優先課題と言っておきながら、自らはバッターボックスに立たずに観客席から伝令を出していただけ。解決の糸口も見えないまま、7年8カ月を無策で過ごした罪は重い。これもマイナス100点だと思う。

安倍前首相が自分で「やる」と掲げた3つの政治課題、「戦後レジームからの脱却」「憲法改正」「拉致問題」については何一つ果たせなかった。総合評価は0点ではなくマイナス300点。私は大学でロジカルシンキング(論理思考)を教えているが、成績が×、×、×ときて終わってみたら評価が上がって合格ということは論理思考ではありえない。

安倍政権の成績表はマイナス300点超

あと2つの重要な評価軸は、安倍政権の内政と外交。まず内政の根幹を担った経済政策は、アベノミクスである。

第1ステージでは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢で「名目成長率3%」を目標に掲げた。それに合わせて日銀の黒田東彦総裁は「2年で2%」を物価目標に異次元の金融緩和、いわゆるアベクロバズーカを撃ち始めた。

第2ステージでは「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」という新3本の矢を持ち出してきたが、3本の矢も新3本の矢もすべて的外れで、アベクロバズーカも不発に終わった。3%成長も、2%の物価上昇も未達のままだ。

アベノミクスで景気が良くなったと評価する向きもあるが、それはジャブジャブと国債を発行し、日銀が450兆円もの国債を民間の金融機関から買い取る形でマーケットに資金を垂れ流した結果にすぎない。

コロナ禍でアベノミクスが失速したというのも見立て違い。金利とマネタリーベースをいじるだけのアベノミクスは20世紀型の経済政策であって、高齢化、ボーダレス化、サイバー化などが進んだ21世紀の経済にはまったく効果がないのだ。消費税増税のタイミングも最悪で、安倍政権の経済政策に評価できるポイントはない。