小型化して冬の味覚になる
シミュレーションによると、エサとなる動物プランクトンの減少にともない、2050年にはサンマの体長は今よりも1cm(体重では10g)、2099年には2.5cm(同40g)小型化するという。日本近海では、産卵のために南下するサンマの親魚を、主として北海道沖から本州沖にかけて漁獲している。しかし、温暖化が進む将来は、エサ不足によってサンマの成長スピードが鈍化するため、南の海域へ回遊する時期が遅くなる。その結果、サンマの漁期も現在に比べて遅くなり、秋の魚であるはずの「サンマの旬」が、冬へとシフトしていくと予測されている。
サンマの産卵回遊において、その個体がどこまで南下できるかは、体のサイズに依存している。伊藤教授は「サンマの成長が遅くなると、南下回遊の時期が遅れるだけでなく、メインの産卵場である黒潮域まで南下せずに、混合水域で産卵する個体も増えるだろう」と予測する。
小型化すると聞くと、温暖化はサンマにとってマイナスの影響しか与えないように思えるかもしれない。だが、このシミュレーションでは、海水温の上昇にともなうプラス効果の可能性も示された。温暖化が進むと、産卵期にエサの多い海域にとどまることになり、その影響で、サンマの産卵数が2割ほど増えるかもしれないという。
伊藤教授らの研究グループはその後、温室効果ガスの排出量が多いシナリオだけでなく、排出量の少ないシナリオや中程度のシナリオも含む、計33ケースの水温予測結果をサンマの成長モデルに与えてシミュレーションを実施し、温暖化がサンマの成長や産卵行動などに与える影響を詳しく検討した。
その結果、33ケースのうち、7割にあたる24ケースでサンマが小型化するという結果になった。一方、産卵数の増加を示したシミュレーション結果は3割の11ケースだった。今後は、新たな計算モデルを用いて、さらに予測研究を進める方針だという。
温暖化が進む将来、サンマは今よりも成長が悪くなって小型化し、秋だったはずの旬も冬に向けてシフトするが、個体数そのものは増えるかもしれない――。伊藤教授らによる一連の研究から、サンマのそんな未来像が見えてくる。