商売における「アクセルとブレーキ」とは

【田中】ここに書かれているのは、商売についてアクセルとブレーキの両方をもちましょうという話です。金儲け(そろばん)がアクセルだとすると、論語がブレーキ。そろばんは重要だけど、ちゃんと道徳心ももちましょうと謳っているわけです。このアクセルとブレーキの両立は二宮金次郎に通じるものがありますよね。

山本豊津、田中靖浩『教養としてのお金とアート 誰でもわかる「新たな価値のつくり方」』(KADOKAWA)

必ずしも質素倹約がいいわけではなく、飯をいっぱい食いたい、いい服を着たい、それのどこが悪いんだと人間の欲を肯定する一方、欲には上限を設けないといけないという金次郎の教え。渋沢も商売で儲けを求めるプロセスには倫理や道徳が必要だと考え、それを彼は論語に求めた。

【山本】マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫)には、倫理が経済に与える影響のことが書かれています。渋沢はマックス・ヴェーバーより前に倫理と経済のことを考えていたのはすごいですね。論語はプロテスタンティズムとカトリシズムの間にあると思えるのですが、彼は少しカトリック的かもしれません。

【田中】プロテスタントで言えばカルヴァン派は「個人の自立」が大事であると謳っています。これは「自分の頭で考えろ」という現代のビジネスマインドに通じます。カトリックは「教会の神父が言うことに従え」という感じですが、プロテスタントは個人の自立に重きを置いて、そのために自ら学べ、ビジネススキルを高めろといった流れになる。効率的に生産的に儲けるにはそれが必要であると。渋沢が論語をもってきたのは、儲けることは大事だけれど卑しい儲け方はしないほうがいいという意味ですね。