横の連携で同業者に連絡してサービス代行してもらった
その反応にホッとしたのも束の間、営業を休止することで利用者にかける迷惑を最小限にするための対応に追われることになった。
「通所サービスは、(高齢者などの)要介護者に対するケアがご家族では十分にできない場合、あるいはご家族が仕事などで出かけるため、私どもがケアを代行するわけですから、いきなり営業を休止するといっても困ってしまうわけです。また、通所サービス休止で生じる最大の問題が入浴。自宅での入浴が困難な方は、通所サービスが頼りですからね」
時期は暑い盛り。エアコンのきいた部屋でベッドに横たわっていたとしても当然、汗はかく。1週間以上入浴できないといった状況は避けなければならない。そこで、周辺の同業者に連絡して、サービスを代行してもらうことにしたという。
「介護業界は同業者であっても、結構ヨコのつながりがあるんです。とくに新型コロナの問題が生じてからは協力して対処しようという空気がありましたから、サービスの代行を頼むことは可能でした。ただ、それぞれキャパシティは限られていますし、すべてを受け入れてもらうことは難しい。ですから、たとえばうちのサービスを週に3回利用されている方は、1回で我慢していただく、という形になってしまいました」
職員の感染が判明してから2週間後の8月下旬、この施設の通所サービスは再開された。感染を恐れて利用を止める人はひとりもおらず、以前と同様の営業をしているといいます。見事に危機を乗り切ることができたのだ。
「職員が濃厚接触者であることがわかった時点で、いち早く営業の自粛を決めたこと、その事実を利用者さんに包み隠さず知らせ誠実に対応したことがよかったのでしょう。また私見ですが、時期や埼玉県という地域性にも救われた気がします。感染拡大が始まって日本中が不安に包まれていた春先だったら風評被害は避けられなかったと思います。7月ぐらいから埼玉も東京ほどではないけれど再び感染者が増えましたよね。その点で、うちの利用者さんも新型コロナは遠い存在ではないことを感じ、気持ちの耐性ができたのではないでしょうか。感染者が少ない地方だったら、こうはいかなかったと思います」
危機を乗り越えからといって、この施設の職員は気を緩めてはいない。
「感染すれば重症化する高齢者と接する仕事。二度と感染者を出さないよう職員一同、それまで以上に感染防止策は徹底して行っています」とHさんは語った。