半導体というデジタルを代表する製品づくりに、アナログの製造技術が大きなカギを握るというのは、ある意味で逆説的に聞こえるが、その事実関係を西村隆司所長は噛んで含めるように説明した。

「一般の半導体を横方向のデバイスとすれば、パワー半導体は縦方向のデバイスなのです。どういうことかというと、一般の半導体はシリコンの表面に電気回路を浅く焼いていく。それに対し、パワー半導体は上に電極をつけて下から電気を引っ張り出す構造なので、シリコンを深く彫る必要があり、それを縦方向に何層も重ねて積み上げなければなりません。


西村隆司所長。「パワーデバイスは、三菱電機の他製品とのシナジー効果が非常に大きい」。

そのため同じシリコンを使っていても、パワー半導体のそれは素材の仕様がまったく異なり、わざわざ原子炉で中性子を当てて純度を上げたり、装置の中でどのような温度で、どの程度の時間をかけて処理するかなど、長年培われたノウハウの蓄積があって初めてできる製品なのです」

加えて、パワー半導体の持つ広汎なシナジー効果も見逃せない。鉄道車両からデジタル家電まで、電力をコントロールする半導体素子としてはどんな分野にも応用可能で、環境保護・省エネルギーの掛け声を追い風に製品シナジーはいやが上にも高まってきているからだ。

「エネルギー効率の向上につながるため、毎年、100億円単位で売り上げが伸びており、事業分野によっては世界シェアナンバーワンの製品がいくつかあります。一例ですが電気自動車を考えた場合、使う電気をいかに少なくして効率よくモーターを回すかがパワー半導体の使命です。そのため自動車のスムーズな走りを実現しながら電力の変換効率を高めるには、まさに打ってつけの半導体なのです」

と説明した西村は

「もちろんムーブアイのインバータ制御用にも、いちばん小さいクラスのパワー半導体が使われています」

と付け加えた。

三菱電機の試算によれば、日本国内ですでに発売された全メーカーのエアコン800万台にインバータが搭載されていることで、年間約110万キロワットの省エネ効果につながり、これは原子力発電所一基分の発電量に相当するという。

これまで見てきたように、三菱電機はシェアが高く価格競争に巻き込まれにくい事業分野に絞り込むことで、会社全体の収益力を強化する経営方針を徹底して追求している。(文中敬称略)

(川本聖哉=撮影)