転売ヤーの買い占めで価格上昇、マスクの転売は禁止されたが……

近年は不必要になったものをネットで売り、小遣いを稼いでいる人が増えている。同時に、中古でもいいから安く手に入れたいと考えている人には、ヤフオクやメルカリはありがたい存在になっている。

価格は需要と供給で決まるため、売る者・買う者の双方が納得できる金額で取引されることが多い。しかし、一部の転売ヤーが特定商品を買い占めることで、市場価格が大きく値上がりすることもある。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴うマスクの高額転売がクローズアップされたのは記憶に新しい。転売されたマスクには、定価の10倍以上の値がつけられたこともあった。

そして、3月15日にはマスクの高値転売が禁止となり、違反した場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科せられるようになった。その後は多くのサービスが、ハンドメイド品も含めてマスクの出品自体を禁止している。

人気アイドルのコンサートなどのチケットも転売による高騰が問題化し、昨年6月からは、「チケット不正転売禁止法」が施行されている。

チケット転売など一部の行為を除いて、日本では転売を取り締まる法律はない。

ナイキ厚底で稼ぐ人のせいで、選手にシューズが届かない

しかし、スポーツ用品に関しても、発売後一定期間は、購入価格を上回る金額で取引されないようにするなど新たな規則が望まれる。なぜなら、アスリートの人生を変えてしまう可能性があるからだ。

たとえばマラソン・駅伝では、ナイキの厚底シューズを着用しなければ勝負できない状況になっている。

昨年10月の箱根駅伝予選会で個人100位以内に入った選手のシューズをチェックしたところ、当時の最新モデルである「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」(昨年7月に発売)を71人が着用していた。

正月の箱根駅伝でも210人中177人(84.3%)がナイキの厚底シューズを履いて出場した。前回は9人が別メーカーを履いていた青山学院大が今回は10人全員がナイキを選択。王座を奪還して、大会記録を7分近くも短縮した。

今年3月の東京マラソンは2時間4分15秒で連覇を果たしたビルハヌ・レゲセ(エチオピア)、2時間5分29秒の日本記録を樹立した大迫傑(ナイキ)ら男子のトップ10に入ったすべての選手がナイキの厚底シューズを履いていた。男子完走者107人中94人(87.8%)がナイキを着用していたことになる。

ひとつのメーカーが圧倒的なシェアを占めている状態は健全とはいえないが、「使用しなければ勝てない」という状況になれば、何としても手に入れなければいけない。

写真提供=ナイキ
多くのアスリートが履いているナイキ厚底

実は、ナイキとユニフォーム契約をしているチーム(東海大、駒澤大、東洋大、中央大)以外は、箱根駅伝に出場する大学でもナイキの最新モデルを入手するのは簡単ではない。

ナイキに直接交渉したり、大手スポーツショップに大量注文したりするなど、各大学は苦労してナイキの厚底シューズを購入している。また、ナイキとユニフォーム契約をしている実業団チームからシューズを譲り受けている選手もいた。でも、手に入れたくても購入できないという選手も出てくる。

ナイキ厚底シューズの人気は実業団・大学だけでなく、高校、中学と広がりつつある。3万円オーバーの価格は「高額帯」といえるが、争奪戦に敗れると、ヤフオクなどで価格の跳ね上がったシューズを購入することになる。このままでは各家庭の金銭状況が結果を左右することになりかねない。