クラス全員ひらがなが書けて、書けなかったのは僕だけ

入学して早々、ショックを受けたのは、クラスメートはほぼ全員ひらがなが書けて、書けなかったのは僕だけだったことです。「小学校受験では、読み・書きはないから」と、両親が教えていなかったのです。

クラスメートがきれいな字でひらがなの書き取りをする中、僕だけ上手に書くことができない。「あ」からいきなり難しくて、苦労しました。周りの子が花丸をもらっているのに、僕は二重丸しかもらえず悔しかったことは鮮明に覚えています。それを母に伝えたら、近所の硬筆教室を見つけてくれました。そこに通ったおかげで字は上達し、生まれて初めて芽生えたコンプレックスは徐々に解消していきました。

花丸、二重丸、ただの丸……。思えば、いろいろな場面で子供たちに優劣を付ける学校でした。裏を返せば、努力することを肯定し、結果をきちんと評価してくれるということです。

勉強のことだけではありません。たとえば「上手に絵が描けた」「教室の本棚を自主的に整理した」「学校で飼っている生き物の世話をした」などの理由で、クラスメートの名前と花丸が黒板に書かれるのです。それは「みんなのことをきちんと見ているぞ」という、先生からのサインでした。だから自然と子供たちに、よいことをしよう、いろんなことに挑戦しようという気持ちが芽生えたのでしょう。挑戦を恐れない気持ちは、いまの自分につながっている気がします。

先生の長いお説教タイムがあったから今の自分がある

暁星小はサッカーが盛んな学校で、体育とは別に週に1回、サッカーの授業がありました。2年生のとき、日韓ワールドカップが共同開催されたことで、日本中のサッカー熱が高まる中、僕もサッカーが大好きになっていました。だからサッカーの授業は楽しみだったのですが、一方で恐れてもいました。なぜなら、先生の指導がとにかく厳しいのです。

技術的な指導ではなく、取り組む姿勢に対して厳しいのです。チームは子供たちが話し合って組むのですが、先生は、「なぜこのようなチーム編成にしたのか」「リーダーはどうやって決めたのか」「なぜあの独りよがりなプレーを放っておくのか」などと質問してきます。うまくチームがまとまらないと、試合をせずに話し合いが続くこともありました。技術的にはうまくても和を乱すプレーをしたら、めちゃくちゃに叱られましたね。サッカーの授業を通じて、チームビルディングの方法や協調性、リーダーシップとフォロワーシップを身に付けさせたかったのだと思います。

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先生方が厳しかったのは、サッカーの授業だけではありません。授業中はもちろん、休み時間や掃除の時間も含め、子供が何かをやらかすと必ず叱られました。

あるとき、テストの答案が1枚なくなり、廊下で見つかったことがありました。その日は1時間目から4時間目までの授業の予定を変更し、クラス全員が4時間続けてお説教です。暁星小では教科担任制度をとっているので、授業ごとに先生が替わります。だから2〜4時間目の先生にとっては予定外のことになってしまうのですが、そんなことはお構いなし。おそらく先生方の中で、学習よりも道徳教育が大事だということが共有されていたのでしょう。