カネより人間中心の「資本主義4.0」へ転換

先ほど、資本主義は大きな転換を迎えていると述べたが、この構造変化は、数百年単位の時間軸で捉えるべき性質のものだ。

資本主義の歴史を極めて単純化すると、「資本・株主・お金」と「労働・従業員・ヒト」という2つの座標軸で整理できるのではないかと考えている(図表参照)。すなわち、「『資本』と『労働』のどちらを重視するのか?」という枠組みのなかで、資本主義は過去数百年間、揺れ動いてきたのである。

歴史的に見ると、資本主義の発展段階は図表のように4つに分けることができる。

第1ステージ(「資本主義1.0」)は、資本が労働より重視された時代だ。18世紀に「産業革命」や「囲い込み運動」を経て、資本主義が成立した当初は、資本家の力が強く、労働者は極めて劣悪な労働環境を強いられた。

資本主義の第2ステージ(「資本主義2.0」)が始まるのは、1833年に英国で「工場法」が成立した頃だ。この頃から、とりわけ欧州諸国において、資本主義は資本家よりも労働者の権利保護を重視する方向へと徐々に舵を切っていく。

その後、1970年代末頃から、資本主義は第3ステージ(「資本主義3.0」)に入る。米国のロナルド・レーガン政権(「レーガノミクス」)、英国のマーガレット・サッチャー政権(「サッチャリズム」)に代表される「新自由主義」全盛の時代が始まったのだ。新自由主義とは、簡単に言えば「政府より市場のほうが正しい資源配分を行うことができる」という考え方である。ここでは、資本家の短期的な利益が重視され、労働者は再び厳しい立場に追い込まれた。

2000年代に入ると、いわゆる「グローバル資本主義」が隆盛を極め、「資本重視」の流れがより一層加速した。いわば、弱肉強食を基本原理とする、強欲むき出しの時代である。

しかしながら、ポストコロナの時代を展望すると、資本主義は第4ステージ(「資本主義4.0」)に入ると予想される。それは、「資本(お金)」ではなく、「労働者(ヒト)」が付加価値の源泉となる新たな時代だ。こうした変化は今回のコロナショックが起きる以前から既に生じていたが、ポストコロナの時代に環境や格差是正への配慮が強く求められる様になると、より一層拍車がかかることになるだろう。