対立を煽るトランプと深まる米国社会の分断

それに加えて、米中の対立が先鋭化している。今後の世界経済の成長を支えると期待されるIT先端分野で、米国と中国は覇権(トップの座)を争っている。それは、米国と中国による世界の覇権国争いのし烈化を意味する。

政治面でも米中が対立している。米国では、中国が新型コロナウイルスの感染者数などを隠ぺいし、パンデミックが発生したとの批判が増えている。ある世論調査では、中国を脅威と感じる人の割合が過去15年間で最高に達した。

感染拡大は米国の経済格差を深刻化させ、さらには警察官によるアフリカ系米国人男性の暴行死事件が発生し、人種差別に対する人々の怒りが噴出した。

トランプ大統領は、人々に連帯を呼びかけて国をまとめるのではなく、対立を煽る発言を行った。その背景には、一部の共和党保守派などの支持をつなぎ、支持率低下を食い止めたいとの考えがあっただろう。

その結果、米国社会の分断が深まっている。人種間、民主党と共和党、富裕層と貧困層など、社会の分断は深まり、人々の対立が鮮明だ。

中国の強さを国民に誇示する習近平

中国では、経済成長の鈍化によって所得・雇用環境が悪化し、習近平国家主席を中心に共産党指導部への批判が増えた。中国は国家資本主義体制を強化し経済の安定を目指すために、米国が停止を求める補助金政策を手放すことができない。

その上に、新型コロナウイルスの感染が拡大し、共産党指導部への批判が勢いづいた。海外からも、中国の情報開示などへの不安や批判が増えている。

習近平国家主席は、政治、軍事、経済で中国の強さを国民に誇示し求心力を維持しなければならない。習氏が米国に譲歩する姿勢をほのめかせば、軍部や共産党の長老などの保守派が弱腰だと批判を強める。習氏は国内の不満を抑え、自らの権力を守るために、対米強硬姿勢をとるしかない状況にあるといって過言ではないだろう。

その考えに基づいて、共産党政権は“香港国家安全法”の制定を批判する米国に対して、人種差別問題への非難を強めてやり返すなど、両国の対立色が一段と強まっている。