もう一つは「書き手を大切にすること」

それと今一つ文春の強みは、書き手を大切にすることである。文春を舞台に大きく成長した書き手を幾人も知っている。

自殺した近畿財務局職員の遺書をスクープした元NHK記者の相澤冬樹は、NHKを辞めたいきさつを書いた本を文藝春秋から出している。本を出しただけではなく、その後のフォローもしていなくては、ネタを持っていこうとは思わないだろう。

昔、私の現役時代は、作家やノンフィクション作家たちとの付き合いは、今よりももっと密であったと思う。書き手が困窮していれば、社と話を付けて前借をしてあげたりすることは日常的にやっていた。

だが今は、本を出すことが決まっていても、前借はほとんど断られる。私がいた頃の出版界は右肩上がりが続いていたが、大手出版社でも、マンガを除いては、ほとんどが赤字という雑誌群を抱えていては、余裕がないことは理解できる。

だが、出版という仕事は、書き手あってのものである。時には、書き手の生き死にに関わることもある。書き手の一人や二人の面倒を見られなくて、何の出版か。

文春のスクープ話から脱線したが、週刊誌が本来の役割を忘れ、現代のように、紙代や印刷代を節約するために月3回刊という変則的な出版形態になっていく中、何が何でも「スクープ命」と突き進んでいくのは、オールド週刊誌OBにはうれしい限りである。

だが好事魔多し。かつて週刊新潮がやった「赤報隊大誤報」(2009年2月5日号)のような間違いを犯さないでくれることを願う。文春がこければ、すべての週刊誌が消えてなくなることもあるのだから。(文中敬称略)

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