この考え方は処遇制度にも貫かれている。非管理職層の給与は資格ごとに昇給していく「能力給」一本であるが、能力評価は前述した「新・成・気・結束」のそれぞれの内容を資格ランクごとに落とし込んだ行動プロセスが大きなウエートを占める。したがって業績評価によって給与が下がることはなく「あまり大きな差をつけることなく、じっくりと育成していく」(丸山人事部長)ことを主眼としている。
とはいっても決して年功型の処遇制度ではない。管理職層は上位になるほど業績評価のウエートが大きくなる。しかも能力ではなく、任用された仕事の役割や職責の重さに基づく役割給制度を05年に導入している。たとえば部長であっても役割を果たせなければ課長職に“降格”し、給与も下がる仕組みにした。
これにより優秀な若手の登用が可能になる。その結果、管理職になるのは従来40歳前後だったが、現在では最短で34~35歳に下がっている。また、最上位の部長・支社長クラスの最年少は41~42歳という。
この役割に基づく処遇制度は大手企業の主流になりつつあるが、同社の特徴は役割給以外に能力の伸長に基づく資格給を残していることだ。つまり部長職から課長職に降格しても資格給は下がることはない。役割給と資格給のウエートは60%対40%、年収ベースでは75%対25%の比率である。
「資格制度を完全になくしてしまうと極端に給与が変動してしまうため、変わらない部分として一部資格給を残すことにしました。あまりにも成果型の給与に偏るのがいいのかという判断もありました」(丸山人事部長)
成果に基づき昇給・昇格のメリハリをつける成果主義の考え方の背景には、仮に減給・降格された場合、社員の奮起を促し、再チャレンジしてほしいとの期待がある。しかし誰しもそうなるとは限らない。欧米流の合理的思考の持ち主ならともかく、日本的企業風土では極端な成果型給与は意欲の減退も招きかねない。資格給を残したのは、制度のもたらす副作用を考慮した同社ならではの微妙な配慮といえる。
一定の安定的給与の保障に加えて、若手を登用するといっても安易に成果・業績だけで昇格させることはしない。ポストへの登用に際しては所属部門の情報や労働組合などあらゆる情報を集めて慎重に検討する。なかでも年上の社員を上手に使えるかどうかを重視する。
「目上の人を上手に使える人間こそ伸びると思っています。若い管理職に常に言っているのは、ものの言い方に気をつけろ、年上というのは絶対的価値であり、君たちは業務の遂行能力などで評価されたかもしれないが、人間の価値とは別に何も関係ないと。年上の部下に対しても、もちろん言いたいことは言わないといけないが、丁寧に接してモチベーションを上げて、一緒にやってもらうような状況をつくる人間が上位に進めると言っています」(丸山人事部長)