「働きがいのある会社」全国5位、年間退職率はたったの0.9%――。誠実で熱い人間が集まり、集団で力を発揮する同社の会社と社員の信頼関係、社員同士の一体感の築き方に迫った。
私は社長を男にしたいと思っています
愛社精神はどうやってつくられるのか――。バブル崩壊以降、日本企業は終身雇用、年功型賃金、手厚い福利厚生といった愛社精神を支えてきた仕組みをことごとく捨ててきた。加えて会社と社員はイコールパートナーであり、意に染まなければ辞めてもいいと広言する経営者もいた。
その結果、社員の離反を招いた反省もあるのか、最近では揺り戻しによる“社員大事”経営が流行っている。しかし、いったん失われた愛社精神を一朝一夕に取り戻せるものではない。
その中にあって、今でも旺盛な愛社精神を維持しているのがアサヒビールである。それを象徴するエピソードがある。同社は昨年GPTWジャパン(Great Place to Work Institute Japan)が調査した日本における「働きがいのある会社」の5位に選ばれた。同調査はアンケートによる社員の生の声を分析して評価するもので、米国では経済誌「フォーチュン」が毎年1月に「ベスト100」を発表する著名なものだ。
そのGPTWの共同創設者のロバート・レベリング氏がアサヒビールを訪問したときのこと。現場の営業マンに会いたいという要請を受け、通訳付きのインタビューが始まった。
レベリング氏が「あなたのモチベーションとは何ですか」と質問をすると、ある営業マンは「私は社長を男にしたいと思っています」と発言。咄嗟には通訳も訳せず、なんとか説明して意味を理解したという。「社長を男にしたい」とは、まさに経営者と社員の信頼関係を象徴する日本的表現である。入賞したベスト25社の中でもとりわけ同社の社員が認識しているステートメントは「この会社で働いていることを、胸を張って人に言える」だった。
同社の丸山高見・執行役員人事部長は「当社はよく体育会的と言われますが、誠実で熱い人間が多く、集団になるとすごい力を発揮してくれる。それから愛社精神が非常に強い。調査をすると会社と経営者に対する信頼感が図抜けて高い。社員自身、経営者が自分たちのことを大事にしてくれていると感じていることが大きい」と指摘する。会社と社員の信頼の絆を示す指標の一つが退職率であるが、同社の過去1年間の自発的退職率は0.9%と極めて低い。