人件費は膨らみ、組織の活力は失われていく

公務員の定年延長は、実は影響が大きい。国家公務員は一般職で28万人あまり、裁判所職員や防衛省職員など「特別職」を加えた全体では58万人だ。だが、国家公務員が定年を引き上げた場合、地方自治体も右へ倣えで定年引き上げが相次ぐことになる。公務員は国の制度が基本になっているからだ。その数274万人だ。さらにかつて公務員だった日本郵政グループや国立大学法人なども国に右へ倣えで定年を延長することになる。国会への法案提出が議論された段階で、定年を65歳に引き上げたところもある。

だが、これは、あくまで人手不足が続いていた環境での話だ。安倍首相も国会答弁で、「高齢職員に活躍してもらう」点を定年延長の理由として繰り返し発言しているが、それは未曾有の人手不足が続いていた時の話だろう。目前に大失業の大津波が迫っている中で、公務員だけ定年延長を急げば大きな禍根を残すことになる。

定年が延びればどうなるか。財政が厳しい中で、総人件費を膨らませないようにしようと思えば、新規採用数を減らすことになる。特に財政状態の悪い地方自治体は新規雇用を抑えざるを得なくなるだろう。そうなれば若者の就職機会は減ることになる。

新規採用を絞らないとすれば、定年が延びる分、人件費は膨らむことになる。そのツケは税金の形で国民や住民にいずれ回ってくる。60歳時の7割に設定すれば、当然、新卒採用の賃金を大きく上回る。退職金も民間企業以上に手厚く支払われ、年金も保証されている公務員をさらに定年延長で優遇することで守る必要が本当にあるのだろうか。

高齢職員が職場に残り続けることで、組織の活力が失われる危険性もある。そうでなくても中央省庁では若手職員の退職・転職が相次いでいた。いつまで経っても責任を持たされない働き方に嫌気がさしているという。定年延長が、ますます優秀な若者人材を集められなくするかもしれない。

強行採決すれば、国民の「怒り爆発」は確実

5月18日時点で、法案を強行採決するという報道や、今国会での成立を見送るといった報道が入り乱れている。公務員の定年延長を強行採決で決めたとなれば、早晩、明らかになってくる民間雇用の悪化とともに、安倍内閣への国民の「怒り」が爆発することになるだろう。官邸周辺にもそうした国民の怒りを恐れる声はあり、法案への対応が揺れているに違いない。

1929年から始まる世界大恐慌では、ハーバート・フーヴァー大統領の失策が大恐慌を深刻化させ、長期化させたと言われている。国民の購買力を維持することが不況脱出にとって重要との観点から、企業に対して賃金水準の維持を求めたが、その要請に従った企業が給与水準を維持するために、人員を削減するという行動に出たため、失業をより深刻化させた、というものだ。大恐慌時代、失業した人と雇用され続けた人では生活に天地の差が生まれ、社会分断を引き起こしていった。

民間企業の疲弊を横目に公務員の生活保障に動けば、安倍首相は将来、フーヴァー大統領同様、歴史に悪名を残すことになりかねない。

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