隠れ「コロナ鬱」が増えているのに精神科の外来患者は減ったワケ

日本の自殺者数はピークの2003年には3万4000人を超えていた。その後、自殺予防対策が講じられ、2019年には2万169人まで減っている。

最近、雑誌や新聞などで「コロナうつ」の問題が取り上げられるようになってきたが、残念ながら政府からはそれに対するアプローチは出てこない。食欲不振や睡眠の質の低下(うつ病の場合は多くは熟眠障害)がコロナうつの初期徴候だと考えられる。

そうした症状の人は、精神的な負荷の大きいコロナ禍において増加していると予想されるが、精神科を訪れる人はきわめて少ない。なぜなら、外出自粛によりうつが誘発される可能性がアナウンスされず、また「病院に行って、コロナがうつるのが怖い」と考える人が多く、多くの精神科の外来患者は減っているからだ。

同じように、自宅にこもることで高齢者がロコモティブシンドロームになりやすく、それをきっかけに寝たきり状態になるリスクへの啓もうもほとんどなされていない。

こうした潜在的リスクに政府や官僚たちは気づいているはずだ。しかし、何もアクションを起こしていない。これはまさに集団的浅慮と言えるのではないか。

自粛期間の長期化で精神的にまいって自殺する人も今後増える

緊急事態宣言の期間は当初、5月6日までの約1カ月だった。それが5月31日までとさらに約1カ月延長された。外出自粛の期間が2倍になったことで、うつ病、アルコール依存症、ロコモティブシンドロームになるリスクは確実に高まったはずだ。

2011年の東日本大震災の時もそうだったが、過大なストレスや苦難に見舞われた場合、人は最初の1カ月くらいは気が張っているが、それ以降にうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような症状が急に増え始めるとされている。震災に比べて今回は被害者や死者数は少ないとはいえ、現在はうつ症状にならずメンタルをなんとか保っている人でも、自粛期間の長期化により、精神的にまいってしまう可能性は決して低くない。

うつ病の増加は自殺者数の増加に直結する。オーストラリアでは、今回のコロナ禍による自殺者が2020年は例年より最大5割増えるという予測がなされている(医師らを会員とするオーストラリア医療協会が5月7日に声明を発表)。日本でも4月30日、「廃業を余儀なくされる」と悩んだ、東京都練馬区のとんかつ屋店主(54)が焼身自殺したとみられている。

アルコール依存症にしても、仮に、この緊急事態宣言の期間が1カ月で終わっていれば、「酒量が増えたレベル」にとどまっていたけれど、さらに1カ月延びたことで、酒を飲んでいないとイライラしたり眠れなくなったりするような形で依存症レベルに突き進んでしまう人も出てくるだろう。

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高齢者がろくに外出していないで歩かないということにしても、1カ月なら筋力低下を最小限に防げても、2カ月となると要介護レベルに筋力が落ちる可能性は否定できない。とくに80代以降の高齢者はそうだ。

こういう危険を専門家会議や政府が真剣に検討したように思えない。むしろ感染者が減ってきて、この自粛政策がうまくいった部分ばかりが強調される。これが集団的浅慮によるものだと考えるのは、精神科医や心理学者の偏った見方なのだろうか。