遺体の目の前で儀式を実施する僧侶の感染リスクは高い
仮に故人がウイルスキャリアであった場合、遺体の目の前で儀式を実施する僧侶の感染リスクは高い。しかし、曹洞宗のガイドラインに書かれているように、僧侶はマスクなどをして読経をすることがはばかられる立場である。ある長野県在住の40代の浄土宗僧侶は明かす。
「私は、こうした状況でも儀式中はマスクを外すようにしています。ですが先日、コロナ感染者と接触した病院の関係者が参列した葬儀の際、ひとことお断りをさせていただいた上でマスクをさせていただきました」
マスクをしていたとしても、儀式の内容や質が変わるものではない。しかし、故人にたいする尊厳を大事にしたいとの思いで、あえてマスクを外す僧侶も多いのが現状だ。
感染予防のため僧侶も常にマスクや手袋をするのが正しいのか。逆に、宗教者たる者、動じることなく平時どおりに儀式を行うのがよいのか。どちらかに正解を見出すことはできない。
苦悩に満ちた葬送の現場ではあるが、救いがないわけではない。オンライン葬儀・法事という手段が活用され始めたのだ。つまり、儀式を、インターネット回線を使ってライブ配信する。
Zoomを利用してお葬式を「ネット中継」するサービス
実はコロナ禍以前に、オンライン法事の萌芽は見られていた。若手僧侶がさまざまな仏事を、SNSを使って中継したり、ユーチューブで配信したりする試みであった。しかし、あまり普及していなかった。荘厳な寺院空間や、儀式の臨場感、あるいは「供養した感」は生の現場に勝るものはないからである。
ところが、コロナ禍により、にわかに供養の場が機能不全に陥る。産業界でリモートワークが普及しだすと、オンライン葬儀・法事を導入するケースが急増し始めた。
オンライン葬儀・法事の仕組みはこうだ。葬儀会館や本堂に入るのは僧侶のみか、ごく限られた身内だけ。寺側か施主側のいずれかがZoomなどのオンライン会議アプリを使って中継する。遠隔地にいる親族は、パソコン上で手を合わす。
オンライン葬儀は葬儀社のオプションサービスとして取り入れるところも出てきた。たとえば、愛知県名古屋市の西田葬儀社では4月上旬から、Zoomを利用した「ネット遥拝サービス」を始めている。遥拝とは、遠隔地にいながら遠い故人や神仏に手を合わせることである。