「同じクラスの女の子なんですが、都内の超有名私立進学校出身で、成績はオールS(5段階評価で最高の評価)。高校の成績も極めて優秀で、一般入試を受けるまでもなく、合格できたのでしょうね。彼女は性格も真面目で、いま司法試験の勉強を頑張っています。現役で合格しそうです」
早慶の学生の証言からわかることは、難関大学ともなれば、AO入試で入った学生も、それなりに優秀だということ。ほかの学生の学力とのバランスもあるため、スポーツなど学業以外の「一芸」に秀でていたことが評価されたとしても、一定水準以上の学力がないと、合格が難しいということなのだろう。
退学率2~3割の底辺校のAO入試組
慶大環境情報学部のAO入試の20年度募集要項を見ると、スポーツや芸術、文化など「さまざまな活動に積極的に取り組んだ」高校生が対象の「A方式」がある一方で、成績の「評定平均値が4.5以上」の高校生を対象とした「B方式」、世界共通の大学入学資格である「国際バカロレア資格を取得、もしくは取得見込み」の高校生を対象とした「IB方式」などもある。AO入試でも、学力で評価される余地が相対的に大きいのだ。
それに、人気のある難関大学なら、AO入試といえども、競争率も高いはずなので、受験生の学力レベルも、自然とアップするのだろう。前出の北原さんによれば、「難関大学のAO入試の場合、倍率が高く、試験対策をばっちりしたのに、落ちてしまった高校の友人もいました。一般入試とは試験の内容が違うわけですが、難度はさほど変わらない」という印象なのだそうだ。
難関大学にとっても、AO入試には利点がある。それは「実質1校専願が多いため、優秀であるだけでなく、その大学を第一志望とする学生を、早めに確保できることです」(石渡さん)。その効果は、入学後の学業や学生生活の充実度に表れる。たとえば、18年5月時点で早大生の退学率は、一般入試組が3.3%だったのに対して、AO入試組が4.8%とやや高かったが、慶大生の退学率は、一般入試組が3.2%だったのに対して、AO入試組がわずか1.9%。安易に学生を受け入れている底辺校のAO入試組の退学率が、2~3割もザラなのと比べると、現行の難関大学のAO入試は一定の成果を収めつつあるといえそうだ。
AO入試の拡大は、受験界にも大きな影響を与えている。大学予備校大手の河合塾進学研究社は、高校生向けのAO入試対策も積極的に行っている。その理由について、同社の首都圏現役生事業部調布現役館チーム館長の綾部欽一さんは「AO入試ならたとえ不合格になっても、一般入試で同じ大学に再びチャレンジできます。受験が年1回だった時代に比べれば、受験のチャンスが2回あるのは、とてもメリットが大きいのです」と語る。