AO・推薦入試のあり方に危機感

AO・推薦入試のあり方に危機感を抱いた西村さんは、学力考査を経て入学した卒業生とAO・推薦入試で入学した卒業生との能力を比較する追跡調査を行い、13年にその結果を発表した(図2参照)。

「45歳以下の男子就業者の平均年間所得では、前者が551万円だったのに対して、後者が485万円でした。AO・推薦入試組のほうが、70万円近くも年収が低かったのです。つまり、AO・推薦入試組の卒業生は、実務能力が低く、社会であまり評価されていないことを暗示しています」

その後、西村さんのもとには大学関係者から、「医学生なのにオームの法則も知らない」「小学校で習う理科の内容も理解していない」といった嘆きの声が、続々と寄せられたという。さらに、西村さんは14年、大手メーカー9社の協力を得て、20代を中心とする技術系社員約1200人の学力調査も行った。

その結果が図3なのだが、数学の基礎学力を問うテスト(22点満点)の平均点では、一般入試組の卒業生が14.3点だったのに対して、AO入試組は13.0点、推薦入試組は10.6点と明らかに低かった。驚いたことに、「9-3÷1と3分の1+1」といった類の、初歩的な計算ができないAO・推薦入試組の技術者も多かった。

「AO・推薦入試の拡大に符合して、日本のメーカーは、特許出願数などに示される技術力が、如実に低下しています。現行のAO・推薦入試制度は、技術立国の基盤を揺るがす元凶ではないかとすら、私は疑っています」と西村さんはいう。

そうした風当たりが強まったのを受けて、AO入試を見直す動きが強まった。文科省もAO・推薦入試制度の改革に乗り出し、11年度から「学力の把握」を大学に義務付けた。具体的には、AO入試では、「各大学が実施する検査(筆記、実技、面接等)の成績」「大学入試センター試験の成績」「資格・検定試験などの成績等」「高校の教科の評定平均値」のいずれか1つ以上を、出願要件や合否判定に用いることにした。図4にAO・推薦入試の歴史を示したが、この11年度は大きな分岐点となったようだ。

一方で、難関大学では、学生の質を担保するため、AO入試でも独自に学力検査を取り入れたケースが少なくない。00年に国立大学で初めてAO入試を導入した東北大学は、一貫して「学力重視のAO入試」を標榜している。AO入試でも、センター試験か、もしくは適性試験や小論文といった学力を検査するテストを受験生に課す。そのためAO入試の難度も高く、先の東北大学ではAO入試で不合格になった後、一般入試で合格してリベンジを果たす学生が毎年150人以上いる。