日本でもはじまる「ウイスキーツーリズム」
日本でもウイスキーツーリズムが少しずつはじまっています。
2016年に蒸留をスタートした厚岸蒸溜所(北海道厚岸郡厚岸町)は基本的に見学を受けつけていませんが、地元の道の駅「厚岸グルメパーク コンキリエ」が主催するツアーに申し込めば見学が可能です。ツアーでは厚岸蒸溜所の原酒を試飲しながら、厚岸名産の牡蠣も味わえます。
地元の厚岸蒸溜所への期待はかなり大きく、2017年に厚岸町でウイスキー検定を実施した折には、町を挙げて協力してくれました。町役場の方が試験監督を引き受けてくださり、受験者のなかには地元の信用金庫の管理職の方々の姿も。受験の理由を尋ねると、「これからの地域経済活性化のカギはウイスキーだと思うんです」とおっしゃっていました。
さらに、地元で原料となる大麦を栽培したり、町内の道有林に生えている樹齢200年を超すミズナラで樽をつくったりと、地域と蒸留所が二人三脚でウイスキーをつくっています。厚岸蒸溜所を核として厚岸の町を盛り上げよう。そんな意気込みがひしひしと感じられます。厚岸蒸溜所は、海外のウイスキーファンも注目するクラフト蒸留所です。2020年2月には、3年超熟成のシングルモルトウイスキー「厚岸ウイスキー サロルンカムイ」が販売となり、注目度は高まるばかり。今後はインバウンド需要も拡大するでしょう。
「見せる」ことを考えて作られた蒸留所
見学を前提として建設された蒸留所もあります。
その好例が2017年にオープンしたガイアフローの静岡蒸溜所(静岡県静岡市葵区)です。静岡蒸溜所では、麦芽の搬入からその貯蔵、粉砕から糖化、発酵、蒸留に至るまで、製造工程に沿って順路が設定され、見学者が間近に見ることができるようになっています。
今でこそ多くの蒸留所が見学を受けつけていますが、ガイアフローの蒸留所のように最初から製造工程のすべてを間近で見せると決め、そのための設計がなされているのはかなり珍しいでしょう。特にクラフト蒸留所は、限られた資本のなか、少ない人手でウイスキーをつくっています。見学客を受け入れれば、それに対応する人員を増やさなくてはいけません。ガイド役の教育や説明パネルの設置など、手間とコストもかかります。「事業が軌道に乗るまではウイスキーづくりに専念したい」との理由から、一般公開をしない蒸留所も少なくないのです。