ところで、そもそもなぜ、彼は隔離が厳しい中国にわざわざ帰国しようと思ったのか。ひとつは、まず生活と仕事の拠点が上海にあることだ。「今帰らなければずっと帰れないかもしれないと思った」と本人は言う。そして、中国の隔離の実態がどのようなものなのか、自分自身が体験し、それを多くの人々に伝えたいと思ったという。

写真=金鋭氏
隔離中、ホテルで提供された、ある日のお弁当

事実、金氏は出発前に中国の隔離情報をできるかぎり調べてみたそうだが、自宅以外の場所で隔離されている人の情報はほとんど入手することができなかった。自分が「中国の今」を発信することは、日本など海外に住む人にとっても貴重だと考えた。

金氏が最もモヤモヤしていたのは…

しかし、それだけではない。日本に滞在していた約2カ月、金氏が最もモヤモヤしていたのは、未知のウイルスに対する日本と中国の温度差、そして情報の受け止め方の違いに違和感を覚えたことだ。それが日に日に増大していったことが大きい。

「日本にいるとメディアの影響力がとても強く、中国について非常にネガティブな情報が多いため、そうした『日本の空気』に流されてしまいがちです。自分にとっても、中国に帰ることは高いハードルとなっていました。もしかしたら、怖いところに閉じ込められるのではないか、とか。

でも、実際はまったく異なりました。何よりも自分の体験と動画がその証拠です。中国のテレビやネットでは常にリアルタイムで感染者に関する情報を流していますし、空港での徹底的な水際対策にも中国政府の『何が何でも封じ込めるんだ』という強い覚悟と気概を感じました」(金氏)

写真=筆者提供
フェイスブックに動画を投稿する金鋭さん

私自身も、この数週間、中国の友人たちに電話で取材して感じていたことだが、中国の人々は、私たちが日本のニュースで見ている以上に、自分たちの生活をすべて犠牲にして、真剣にこのウイルスと向き合い、戦ってきたということ。そして、彼らが今、最も強く感じているのは「ここまでがんばった結果、自分たちは新型コロナウイルスに勝った」「困難を克服した」という自信や達成感のようなものだ。

厳しい都市封鎖と外出制限が効果を発揮した

日本では、自らに迫りくる危機はさておき、中国の終息モードを疑惑の目で見ている人がかなり多いと思う。解放された武漢の人々の喜びように対しても「まだ無症状患者が多いのに、今、人々が町に繰り出したら怖い、危ないじゃないか」「中国政府はうそをついているんでしょう?」と思っているだろうが、少なくとも、私の知る中国人からは「自分も政府もよくがんばったと思う」「政府の対応は正しかった」「ここまで徹底的な対策をとるのはやむを得なかった」という声が非常に大きく、武漢の喜びは全国民の喜びとなっている。