志を持つことの大切さ

緒方さんと仕事の分野は異なりますが、志を持つことの大切さは同じだと感じています。しかし、それを保つことはさらに大変です。緒方さんにしても、繰り返される紛争で、国外に脱出する難民だけでなく、国内で命の危機にさらされる避難民の現実に心が折れそうなこともあったでしょう。それを支えたのは、2200万人ともいわれる難民に対する責任の大きさにほかなりません。

緒方さんの笑顔は周囲の人たちから愛されたといいます。その理由は、彼女の人への接し方にあったのでしょう。緒方さんはスピーチで「3つのリスペクト」について語ったとおり、けっして上からの視線ではなく、常に相手を敬っています。国際貢献に取り組む国の政府、現場で活動するユニセフなどの国連人道機関や各国のNGO(非政府組織)のスタッフ、そして何より一番に難民自身を強くリスペクトしていました。

社会と社員に責任感と敬愛の念を持つことは経営でも同じ。そのうえで、トップにはミッションを明確にし、実践していくための的確なロードマップづくりが求められます。それがうまくいくかどうかは、経営者のリーダーシップにかかっています。

残念ながら、緒方さんのような強い意志を抱いて世界で活躍する日本人は、あまり見当たりません。だからこそ、いま私たちに必要なのは、まず一人一人が強い意志を持つこと。それに加えて、国際社会にしっかりと目を向けることではないでしょうか。

(構成=岡村繁雄 撮影=門間新弥)
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