日本は「コメと自動車」、アメリカは「農産品の輸出拡大」を死守

また輸入する農産品については、コメ農家を守るために、(日本へ輸入される)コメの関税が引き下げられることだけは阻止しようとした。このように安倍政権は、コメと自動車を守ることを最優先とし、それ以外は交渉次第で譲歩してもいいというくらいの優先順位付けをしたのだと僕は見ている。

一方、アメリカ側は、日本に対して農産品の輸出を拡大するために関税を引き下げることが最優先だった。トランプ大統領は農家の支持拡大に力を入れていたからだ。それ以外は、日本に譲歩してもいいと考えていたと思う。

日本は、コメと自動車だけは死守し、それ以外は譲るという優先順位を付け、アメリカは農産品の輸出拡大だけは獲得し、あとは譲歩するという優先順位を付けた。日本とアメリカの要望と譲歩のマトリックスを作ったところ(このマトリックスについては、著書『交渉力』中で詳述している)、最後コメの部分をアメリカが譲歩して関税引き下げを取り下げたので、ここで両者の要望と譲歩がバチッと一致して、最終合意に達したというわけである。きれいにまとまった交渉の例だと思う。

弱い立場ながら、守るべきものを守れた

橋下徹『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』(PHP新書)

譲歩した部分を批判すれば、いくらでも批判は可能であるが、交渉は基本的には「譲歩」である。日本側が「コメの輸入は増やさないので関税は引き下げない。自動車の輸出を減らさないように関税の引き上げ阻止。その他の農産物の輸入も増やさないので関税は引き下げない」と主張し、譲歩する姿勢を一切見せなければ交渉は成立しない。交渉が成立しなければ、アメリカ側から、日本の輸出自動車の関税を25%に引き上げられかねない。交渉においては自分の要望すべてを獲得しようとすることは無理であり、どれを死守し、どれを譲歩するかを明確に整理しておく必要がある。

さらに日本は、アメリカに自国の安全保障を委ねているという点で、力関係が圧倒的に弱い。その弱い立場でありながら、守るべきものを守って交渉が成立したことは、僕は良い交渉だったと見ている。

交渉を批判するのに、譲歩した部分だけを取り上げても意味がない。何を死守すべきなのか、それは死守できたのか、その観点で交渉は評価すべきである。死守すべきものが死守できたのであれば、その他はどれだけ譲歩していようが、そこは何ら問題ない。

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