日韓関係に「歴史認識の一致」は不要だ
要望・譲歩の整理ができていないと、交渉にお互いの「価値観」「思想・信条」「哲学的なもの」が入り込むことが多くなる。それらが入り込むと、交渉がまとまらなくなる。価値観、思想・信条、哲学的なものの相違は、そう簡単には埋まらない。それらが異なる相手に対して、自分の価値観、思想・信条、哲学的なものを認めさせることは容易ではない。そして、交渉をまとめるには、それらが双方で一致する必要などない。
現在の日韓関係はその典型例だ。歴史認識の違いという価値観・哲学的なものを交渉に持ち込んだら、延々平行線が続いてしまう。
日韓で交渉をまとめたいのであれば、歴史認識で折り合うことを考えず、そこは平行線のままで、相互の要望と譲歩のリストを整理し、お互いに譲歩のカードを淡々と一枚ずつ切り合っていくしかない。そしてお互いに「これだけは絶対に譲れない」というところを獲得できれば交渉は成立するし、絶対に譲れないところを獲得できなければ、交渉を決裂させるしかない。そこに歴史認識を一致させるプロセスはまったく不要である。
反対に、プロ同士の交渉では、お互いに絶対に感情的にはならないし、無駄な話もしない。なぜなら、双方の要望・譲歩がきちんと整理できており、お互いに譲歩のカードを淡々と1枚ずつ切っていく作業に徹するからだ。一方が1枚切ったら、他方も1枚切る。そうやっていくと、感情的にならず、無駄な話もせずに交渉がディール(成立)する。
「絶対譲れないもの」を守れた日米貿易協定
2019年10月に署名された日米貿易協定は、交渉が成立した良い例だ。もちろん、批判しようと思えばいくらでも批判はできる。「日本は譲歩し過ぎだ」「日本の負けだ」と言う人もいる。日本にとって大きなものは得られなかったのに、アメリカから輸入する農産品(コメを除く)の関税はTPPの水準にまで段階的に引き下げることになった。
牛肉の場合、現在の38.5%から段階的に引き下げられ、1年目に26.6%、2033年にはTPP水準の9%になる。
交渉結果を批判することは簡単だが、日本は優先順位を付けて、大きなものは得られなかったにせよ、「絶対に譲れないもの」=「これだけは死守するというもの」を守ったと見るべきだ。日本が死守したものは、コメであり、輸出自動車の関税だ。
トランプ大統領は日本から輸出される自動車の関税を現在の2.5%から25%に引き上げると主張した。トランプ大統領がよくふっかける関税の引き上げだ。関税が引き上げられると輸出が落ちる。自動車産業は裾野が広く日本経済へ及ぼす影響が大きいから、安倍政権は自動車の関税引き上げだけは絶対に阻止しようという方針だったのだろう。