約55億円を騙し取られた「地面師詐欺事件」

2017年、東京・西五反田にある土地の取引を巡って、積水ハウスは地面師と呼ばれる連中の詐欺に遭い、約55億円を騙し取られた。

問題の土地は海老澤佐妃子という人が所有するもので、その知人と称する人物が土地売買を積水ハウスに持ちかけたことに始まる。積水ハウスはこの知人が経営する会社から転売されるという形で西五反田の土地を買うことにした。そこで海老澤と知人の会社の間で60億円の売買契約が結ばれ、知人の会社と積水ハウスの間で70億円の売買契約が結ばれ、手付金の支払いと所有権の仮登記が完了した。

ところがその後、積水ハウスに土地売却を持ちかけた「海老澤」は偽物だった。会社には本物の海老澤から「真の所有者は自分であり、売買予約をしたり、仮登記を行ったりしたことはないので、仮登記の抹消を要求する」という内容証明郵便が複数届いた。

他にもリスク情報が寄せられたため、弁護士などは、「会社に現れた海老澤が本人なのか、海老澤の知人などによる確認が必要」と指摘したものの、これが実行されなかった。さらに積水ハウスは寄せられるリスク情報はブローカー的人物が関与しようとしているものと判断し、残余金の支払いを約2カ月前倒し、2017年6月1日、詐欺師集団に巨額のお金を支払った。6日、法務局より本登記申請が却下され、9日には通知が届いたことで詐欺に気づいた。

社長をクビにしようとして返り討ちに

これを受けて社外監査役と社外取締役で構成する調査委員会による調査が始まり、2018年1月に報告書がまとまった。そこには一連の取引で当時社長だった阿部俊則氏(現会長)が物件を内覧し、早々に社長決裁をしたことも書かれていたため、1月24日の取締役会で和田氏が当時社長だった阿部俊則氏(現会長)の社長解職動議を提案すると、当事者である阿部氏を除く取締役の賛否は5対5の真っ二つに割れた。

その後、阿部氏が席に戻ったところで取締役会議長交代の緊急動議が出され、これが6対4で可決。新たな議長が出した和田氏解任動議が可決され、和田氏は自らの意志で退く辞任を決めた。

この経緯を見る限り、一連の事件は天皇だった和田氏が巨額詐欺事件に関わっていた阿部氏をクビにしようとしたところ、返り討ちに遭ったというもので、企業によくある会長と社長の暗闘、「主殺し」と思える。

2020年2月14日、その和田氏と積水ハウス取締役で専務執行役員の勝呂文康氏などが2人を含む11人の取締役候補の選任を求める株主提案をした。

2018年1月24日付調査対策委員会報告書によれば、地面師事件では阿部氏のほか当時副社長だった稲垣士郎氏(現副会長)、専務だった内田隆氏(現副社長)、常務だった仲井嘉浩氏(現社長)にも責任があるとされている。その4人が中心となっている現経営陣が不正取引の責任を取らず、調査報告書の開示を拒んでいる。