今の時代に「テレワークできない」厚労省
官僚は、政治家とは逆に、もともと「積極的な対応」を避ける人種だ。無策や慎重な対応で責任が問われることはまずない。責任が問われるのは、何かを踏み込んで行なったときだ。
今回の新型コロナでも後手後手に回っているように見えるのは、「最悪の想定」をして対策を事前に講じておくという文化が霞が関にないからだ。しばしば「想定外でした」という言い訳がなされるのは、霞が関だけでなく官僚機構全体、あるいは役所的な会社の宿命と言ってもいいだろう。
「予備費を使ってパソコンを支給したらどうか」
ある省の事務次官が厚労省の幹部にそんな苦言を呈していた。加藤厚労相が「テレワークの推進」を呼びかけたにも関わらず、厚労省の課長補佐が業務用のパソコンを支給されていないため、テレワークができないという話が話題になった席でのことだ。
つまり、パンデミックで交通が途絶し、役所に通勤できなくなる事態を想定していなかったのだ。
今の時代、個人用のパソコンやスマホを持っていない人はほとんどいないが、それを役所のシステムにつなぐことは御法度で、自宅から仕事ができないということだろう。民間企業では、時限的に自宅の個人パソコンを会社ネットワークに接続できるようにルールを緩め、テレワークに踏み切ったところも多いが、そうした対応ができていないのだ。
また、外部の識者を集めて開く各種審議会でも、テレビ会議を実践しているのは首相官邸の会議ぐらいで、他省庁の会議は遠隔開催できる態勢にすらなっていない。そもそも日頃の会議でテレビ会議を実施したことがなければ、非常時にテレビ会議での対応などできないだろう。民間では、出張先など遠隔地からスマホで会議に参加するのがもはや普通の光景になっているから、在宅でのテレワークになってもさほど混乱していない。
「縦割り問題」が対応を遅らせている
もうひとつ、霞が関が抱える問題は「権限の所在」が分散していることだ。しばしば批判される「縦割り行政」の弊害である。今回の新型コロナ対策でも担当省庁の縦割り問題が対応を遅らせる一因になったとみられる。
1月30日金曜午後、横浜の港に近い産業貿易センターの大会議室で「横浜港新型コロナウイルス感染症に関する関係者連絡会議」が開かれた。翌週の月曜日には集団感染を引き起こした大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜沖にやってくるのだが、この日の会議は、その後の危機をほとんど予測していない。
参加機関には、国土交通省の関東地方整備局や関東運輸局、横浜検疫所などが名を連ねたが、厚生労働省の本省からは参加していない。議事も、国交省からの情報提供、横浜検疫所からの情報提供、横浜市健康福祉局からの情報提供となっていた。この段階では「出先任せ」で本省が出張っていく問題とは思われていなかったのだ。