米国では1万4000人がパンデミック対策を行う
ところが、ダイヤモンド・プリンセスの入港で事態は一変する。港湾は基本的には横浜市と国交省の管轄。クルーズ船に関する情報収集も当初は国交省が窓口だった。
しかし船内の感染が拡大していく中で、なかなか情報が伝わらず、ネット上などで「隠蔽しているのでは」といった噂も流れた。
関係者はその実態について、「情報の集約先を厚労省の本省に決め、実施するのに時間がかかった。クルーズ船の運行会社でも情報を国交省に報告するのか、厚労省に報告するのか、混乱が続いていた」と証言する。もともと、こうしたクルーズ船での大量感染時に厚労省に情報が集まる仕組みができていなかったのだ。
米国にはCDC(疾病管理予防センター)があり、トップは大統領が任命する政治任用ポストで、強い権限を持つ。職員は1万4000人、年間120億ドル(約1.3兆円)の予算を持つ。未知の病原体の調査研究を行いパンデミック対策などの司令塔になる巨大組織だ。
一方、日本で感染症対策に当たる政府機関は、国立感染症研究所で、所員は348人、年間予算は64億円に過ぎない。新型コロナのPCR検査に当たる「ウイルス3部」には16人しかおらず、他部署や外部からの応援も合わせて78人がローテーションで対応しているという。圧倒的な貧弱さだ。
非常時こそ「官僚が機能する仕組み」が必要だ
このところ日本でも相次いだ台風被害などに対応するために、米国の「連邦緊急事態管理庁(FEMA)」と同様の組織を日本にも作るべきだという声が自民党などからも上がっている。だが、日本でこうした省庁の再編議論はなかなか進まない。新しい組織を作れば、既存の省庁の権限や予算が削られることになりかねないからだ。
CDCのような組織が必要という声が上がったとしても、感染症対策を所管する厚労省から新組織を作るべきだという声は上がらない。厚労省の下に作るとなれば賛成するかもしれないが、それでは省庁横断的な権限集約はままならない。
新型コロナの蔓延が続く中では、独断専行にも見える首相官邸の“リーダーシップ頼み”も致し方ないかもしれない。しかし、本来は、国民を危機に晒す非常時にこそ、専門家である官僚がきちんと機能する仕組みを作るべきではないか。
この感染がおさまったからといって忘れてしまうことなく、さらに強力な病原体のパンデミックが起きた場合を想定して、政治と官僚機構のあり方を整備しておくことが必要だろう。来年の冬にさらに深刻な事態が発生しないとは言い切れないのだから。