野村証券アナリスト(主席研究員)の正田雅史は言う。

「PBはロス管理をして売り切ってはじめて利益が出ます。人が育つことは確かですが、そこまで覚悟を持って取り組む人がどれだけいるか。自主編集売り場も、伊勢丹新宿店のように自分たちでブランドを選べるお客さんをつかんでいないとうまくいかない。それも、払っても払っても背中から離れない背後霊のように、お客がバックにしっかりとついていないとダメですね。在庫マネジメントができない中途半端な『自主』だったら、いっそのことテナントを入れ、サポートに徹するというのが、大丸、松坂屋を擁するJ・フロントリテイリングの方針です。それはそれで一つの生き方ですよ。百貨店には自分たちでMDリスクを取るノウハウはほぼ消滅しています。無理に復活させるのは、お年寄りに1キロを全力疾走しろと言うようなものでしょう」


百貨店を巡る統合と、改装・閉店の主な動き

1キロを確実に走りきるためにはどうするか。ふだんから運動し、基礎体力をつけるしかない。いまPBを通して、そこに真剣に取り組んでいるのが、そごう・西武だ。

池袋西武は08年冬から段階的に全館の構造改革を進めている。09年9月からは、デザイナー・アツロウ タヤマとタッグを組み、PB・リミテッドエディションをスタートした。コンセプトは百貨店らしいファッション性や上質性を備えた中~低価格商品。「売り上げが厳しいのはリーマンショックの影響だけか」という自らへの問いかけがきっかけだ。

取締役常務執行役員の松本隆は言う。

「突き詰めていくと、百貨店は中価格帯から低価格帯が弱い。なんとなく高級で専門的という曖昧なモノにお客様はもうお金を払わない。求められているのは、百貨店の品質を維持したボリュームゾーンの商品です。しかし、取引先の体力も弱まっていて、質のいいモノを低価格でやれといっても難しい。結局、自分たちでリスクを取らなければダメだとPBを考え始めました」

リミテッドエディションの第一弾は、松本氏が「3万5000~3万6000円の商品と同等品」と自負する9800円のビニールレザー製ジャケット。発売されるや爆発的な売れ行きを示し、以後、スカートやニットなども追加された。そごう・西武が扱うミセス向けの48ブランド中、リミテッドエディションの販売点数はトップだ。成功を受けて、PBの領域は紳士服、子ども服、インテリアやスポーツにも広がっている。

※すべて雑誌掲載当時

(相澤 正=撮影 ライヴ・アート=地図作成)