要注意の不倫相手を擁護する夫
数日の調査で女の悪行を裏付ける証拠を、かなり多数入手することができた。しかも、一般的な不倫でなく、相手はかなりのいわくつきである。
私は、結果報告の際には、依頼者のセツコさんだけでなく夫も呼んで真実をつきつけた方がいいのではないかと提案。セツコさんも賛同し、勇気を出して、「ちょっと、ある人と相談したいことがある」と言ってもらい、夫も一緒にやってくることになった。もちろん、何の相談なのかは詳しく話さずに、子どもの進学のことだとごまかしていたようだった。
しかし、真実を知って夫が目を覚ませばよいのだが、不倫相手の女に完全に入れあげている場合は、何を言っても聞く余地はないであろう。今回は女がかなりの曲者だけに、そのあたりも十分見極める必要があった。弊社へやってきた夫は、探偵社の看板を見て訝しげな表情であったが、ここまでくればこっちのものである。相談室に通し、「実は……」と切り出した。
セツコさんも、すでに腹をくくっているらしく、私の説明に対して堂々と言葉を補足してくれた。私と探偵たちは、夫が付き合っている不倫相手が、驚くべき人物であることを元夫の証言も交え、さらに裏付けとなる客観的証拠も見せて報告していった。
しかし、夫の反応は頑なだった。
真実と女への未練の間で揺れる夫、最後まで戦う覚悟の妻
「彼女はそんな女じゃない! 何かの間違いだ!」と、夫から出てきた言葉は、不倫相手の擁護だった。元夫の証言についても、頑として信じようとしなかったが、さすがに7回の結婚・離婚はまったく知らされておらず、その証拠を見る手は小刻みに震えていた。
「……すぐには受け止められない。私が直接聞いて、それから妻とのことを話し合いたいと思います。離婚するにしても責任はちゃんととりますから」
夫は実に理性的だった。客観的な証拠から見えてくる確かな真実と、女への断ち切れない未練の狭間で揺れ動く心の葛藤が、その顔にはっきりと浮かんでいた。セツコさんは、夫の態度に動揺していたようだったが、ここまできたら最後まで戦う覚悟も同時に感じられた。
夫は女と直接会って話すというので、隠しマイクを取り付けさせて欲しいと頼んだところ、快くOKしてくれた。事態は、いよいよ最終章を迎えつつあった。その日の内に女に連絡をとり、二人がよく知るファミリーレストランで落ち合うことになった。
探偵たちも夫から離れた場所に散らばって待機し、様子を見守ることになった。妻のセツコさんは、私と一緒に駐車場の車の中で、隠しマイクの音声を聞きながら待っていた。