政治と経済が最悪のタイミングでかみ合う恐れ

新党首の候補としてはラシェット副党首のほか、メルツ元院内総務、シュパーン保健相などの名前が挙がっている。とはいえどの候補もCDUが単独与党に返り咲くようなカリスマ性を持っているとは言い難く、2021年10月までに予定される次期総選挙では、ドイツ政治の多極化が進むものと考えられる。

ドイツ経済は今、2つの大きな課題を抱えている。1つが過度に輸出に依存した経済モデルを是正しなければならないという点だ。メルケル政権下でドイツは、特に中国への輸出依存度を高めたが、中国経済の構造的な成長鈍化を受け、このモデルは徐々に立ち行かなくなってきている。足元では新型コロナウイルス騒動の悪影響も加わった。

もう1つが、東西ドイツ間に存在する格差問題への対応である。今年10月で東西ドイツ統一から30年が経つが、東西間には引き続き3割程度の所得格差があり、雇用格差もある。そうした格差がメルケル政権下であまり改善しなかったことが、旧東独地域でAfDが台頭する事態につながっていることは紛れもない事実だ。

これらの大きな課題を克服するためには、強いカリスマ性を持つリーダーの誕生が望まれる。しかし政治が多極化しつつある現在のドイツで、そうしたリーダーが生まれる展望は描き難い。政治の多極化と表現すれば聞こえはいいが、それは要するに、ドイツが抱える課題の改善を遠のかせる「決められない政治」の誕生に他ならない。

長期政権に安住し適切な後継候補を育まず、ドイツ経済の構造的な課題にも切り込めなかったCDU指導部の罪は決して軽くない。少なくとも先の任期の頃までは名相の誉れが高かったメルケル首相の最大の置き土産がドイツの落日であるとしたら、これほど皮肉なものはないと言えよう。同様のことが日本にも当てはまらないことを祈りたい。

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