国内唯一、受刑者同士が「対話」して過去や罪を振り返るプログラム
取材許可を得るまで6年。日本で初めてこの刑務所内にカメラが入り、受刑者に2年間密着したドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』(坂上香・監督)が1月25日に都内で公開された。
筆者はひと足先に試写を観たのだが、正直驚いた。「刑務所がその気になったら、ここまでやれるのか」と思ったのだ。
舞台となる刑務所は、島根県浜田市にある「島根あさひ社会復帰促進センター」。刑務所という名称でないのは、ここが施設の設計・建築および運営の一部を民間事業者に委託して運営される刑事施設(官民協働刑務所)だからだ。あまり知られていないが、こうした刑事施設は、この島根のほかに山口、栃木、兵庫の各県にある。
映画が始まった瞬間、僕は度肝を抜かれた
センター内に入ったカメラが映し出す画面が、映画やドラマで観るような刑務所のイメージと180度違うのである。
まず明るい。雰囲気だけではなく、白い壁と木目の床がライトに照らされ、爽やかなのだ。受刑者が着ている服も黄色のポロシャツにチノパンで、監視するのはICタグとCCTVカメラ。部屋は個室で窓もある(普通はないのだ!)。全員丸刈りじゃなければ、ここが刑務所だとは思えない。従来の刑務所とは違う、新しいタイプの施設であることが伝わってくる。
「負の感情」を互いに吐き出し、共有する
ここでは何が行われているのか。
映画が着目するのは、この刑事施設における「回復共同体(Therapeutic Community:セラピューティック・コミュニティ、以下TC)※」というプログラムだ。このプログラムの特徴は、認知行動療法などの専門スタッフ指導のもと、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り更生を促すことだ。日本で唯一この施設がこれを導入している。
※英国の精神科病院で始まり、1960年代以降、米国や欧州各地に広まった。コミュニティ(共同体)が相互に影響を与え合い、新たな価値観や生き方を身につけること(リハビリテーション)によって、人間的成長を促す場とアプローチ。
受刑者の多くは、家庭の貧困や親からの虐待、周囲の人からの差別やいじめを受けた経験があり、それ以外にもさまざまな負の感情を抱え込んでいる。「対話」により、それらを隠すのではなく、吐き出し、共有する。
また、他の受刑者の話を受け止める役割も担う。半年間かけて科学的に裏付けられたTCを段階的に受けることで、自分自身と向き合わせるのが目的だ。
しかしながら、オレオレ詐欺、オヤジ狩り、傷害致死といった罪を犯した者が、他者との関係性の中で過去の自分をしっかり振り返り、未来に目を向けていくことができるのか。作品の最初から最後まで、ぴんと張り詰めた空気が画面に漂い、目をそらすことができない。