※本稿は、前野隆司『ディストピア禍の新・幸福論』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
人類は理想の平和に向かって歩む、と思っていたが
1962年に生まれたわたしは、若い頃、「第二次世界大戦後に生まれて本当によかった」と思っていたことを覚えている。戦争のないバラ色の世界。1975年にはベトナム戦争が終結し、1989年にはベルリンの壁が崩壊した。
「ついに人類は理想の平和へ向かって歩んでいる」。そんな希望があった。
もちろん、その後も悲惨な紛争や内戦はいくつも起きていたが、少なくとも第三次世界大戦が起こることを想像する機運はなかった。
だが、去る2017年、民主主義国家アメリカで、民主主義を破壊するような言動を繰り返すトランプ大統領が誕生したことはショッキングだった。
多くの惨禍を経験した人類はもはや愚かではなく、少なくとも民主主義の強国において扇動的な指導者が代表に選ばれることなどあり得ないと思っていたら、いとも簡単にかつ民主的に選ばれてしまったのだ。
この暴君が選ばれる過程を見ていると、アドルフ・ヒトラーが首相に選ばれた過ちが実は現代の世界でも簡単に再現できることに対し、恐怖を感じたものだ。
アメリカも中国もどこへ向かうのか
トランプは2020年の大統領選に敗北し、わたしもひとまず胸を撫で下ろした。だが、落選後にも暴論を繰り返し、それによって支持者の議事堂襲撃という民主主義の根幹を揺るがす事態を引き起こしたのには、閉口するばかりである。
また、国内総生産世界第2位の中国が、共産主義国家なのか、専制政治なのか、独裁政治なのかは、今後も注視していく必要がある。
少なくとも現時点で、企業活動に国家が介入したり、個人の権利を制限したり、ウイグル自治区で悲惨な人権侵害を行っていたり、周辺の各国と領土紛争を引き起こしているなど、「人民が共に和する国」とは言い難い。
着々と軍備を拡張しつつある中国の国内総生産が10年以内に世界一になるという予測を見ると、新冷戦構造がどこに向かうのかは予断を許さない。