流通支配権を奪い返す

カップ麺や飲料など加工食品から始まり、いまや衣料品、自転車など生活のあらゆる分野へと拡大してきたPB。

この5月27日には、イオンが三洋電機と共同開発したドライヤー、アイロンなど六種の家電が新たに発売される。ウォルマートなどアメリカの大手小売りではPBが売り上げに占める割合が20%、イギリスでは同じく40%にも達しているという。また、欧米の小売店では、PBのほかにはNBが1~2種類しか置かれていないことも珍しくはない。


従業員向けに開かれたトップバリュ商品展示会(幕張、大阪、名古屋で開催)。来場者は消費者の立場に近い女性が中心だった。

日本においても、商品を選択する自由度が、今後は大幅に狭まる可能性があるかもしれない。しかし、消費者に主体性を持って選択する場を提供するのも小売りの役割だ。

イオン、セブン&アイ、西友といったGMSがここ2、3年でPBを拡大するという方針を明らかにした。これからPB構成比が高まると、ベスト3から削ぎ落とされたメーカーは、PBをつくるほうに回らざるをえない。さらには、メーカー同士のM&Aも活発になっていくだろう。あくまで仮定の話だが、イオンのような大手小売りの傘下に入るメーカーも出てくるかもしれない。

かつて、日本の流通には「PB大魔王」を自称する男がいた。ダイエーの創業者、故・中内功氏だ。

「流通革命とは、主権者としてのメーカー・生産者に代わり、消費者が主権を持つこと」「チェーンストアは、工場を持たないメーカー」「現在の流通部門を支配する者は生産者であるが、現状に飽き足らず革新を目指す流通業者は、生産者をその権力の座からひきずりおとし、流通支配権を流通業者の手に奪い返すことを目指している」と、自著に記している。

64年、東京オリンピックの年にダイエーは松下電器とテレビの価格決定権をめぐって激しい戦いを繰り広げた。そのさまは“30年戦争”と称され、国内の流通構造を揺るがすものとして注目を集めた。単にメーカーがつくったものを仕入れ、販売するだけでは、価格を大幅に下げることはできない。それなら自分たちの手で「圧倒的な安さ」を前面に打ち出したPB商品をつくるしかないと、70年、13型カラーテレビ「BUBU」を5万9800円で発売。同等のメーカー品は10万円を超えていた。そして78年、中内氏はジュース、醤油などのカテゴリーで「セービング」の前身となるノーブランドPBを発売した。

それから30年、「価値をつくりだすのは消費者だ」と言い続けた中内氏の志を継ぐ者たちが、自社のPBを武器に、新たなる流通革命を引き起こそうとしている。

(向井 渉(商品写真)、藤井昌美、白久雄一=撮影)