「もともと野村監督にはコンテンツとしての価値を求めてお越しいただいたのではありません。学校にたとえてみれば、小学生レベルの精神状態だった選手たちを高校野球レベルくらいまでに持っていってもらうというのが目的だったのです。3年目が終わって、目的とした育成にはちょっと足りなかったので、あと1年お任せしたのです。華やかな年にして、(監督の)幕引きにしてほしいとの思いもありました」

目的にほぼ達したことで、方針どおり、野村監督に退任してもらい、前広島監督のブラウンを招請したのだった。推定年俸が野村監督は1億5000万円、ブラウン監督が6000万円。

「判断がぶれたことはありません。チームが成長すれば、指導、育成の仕方、マネジメントの仕方って、当然変わっていかないといけないのです」

楽天野球団が掲げる三本柱は「強いチーム」「健全経営」「地域密着」である。驚きは、なんといっても、健全経営、いわゆる「楽天ビジネス」が軌道に乗っていることである。

島田は2004年10月のことをよく覚えている。ITベンチャー企業の旗手、ネットショッピングモール「楽天市場」の三木谷浩史と夕食を共にし、球団の経営を依頼された。「将来的には黒字化してほしい」とも。

「野球を経営する原点はその日にあります。野球のことを知らなくてもいいよ、と言われたので、“じゃ、やってやろう”と思ったのです。黒字化をしてやろうということです」

それまでの球団の「タニマチ型」経営はひどかった。巨人や阪神は別として、ほとんどの球団が赤字に苦しんでいた。楽天参入のきっかけになった、近鉄とオリックスの合併も、近鉄が年間数十億円におよぶ赤字を出す体質から脱却できなかったからだった。

つまりは“儲からないビジネス”だった。不安は、と聞けば、「全然感じたことがない」と笑い飛ばした。

「もともと無責任なのか、プレッシャーなど感じたことは一度もないです。不謹慎ですけれど、野球ってどんなビジネスなんだろう、って興味があったのです。どんなストラクチャーになっているのかわからなかったのです」

島田には野球知識がなくても、ビジネスの成功体験があった。この自信は大きい。もちろん球団をつくった三木谷もしかりである。しかも三木谷はJリーグのクラブを経営していることで、ポイントが「球場の使用権・営業権」を持つことだとわかっていた。