10億人の“無名”の人たちに身分の保障を
――この提言の中で、特に目を引くのが国民登録のない10億人の人々を対象とした「世界市民パスポート」の交付だ。アタリ氏の持論でもある「世界市民パスポート」とはどのようなものなのか。
私は「世界市民のパスポート」を提言しています。今、多くの人たちが無名のまま死んでいます。難民としてひどい状況から海を越えて逃げてくる間に、誰にも知られぬまま亡くなります。もし一人ひとりが世界市民として国連の人権宣言と国連憲章に基づいた条件で明記されたパスポートを持っていれば、どんな人でも必ず、何らかの権利を有するはずです。10億の人たちには身分の保障が全くないので、この人たちに名前、写真、そして威厳をパスポートによって与えることは非常に大事です。
我々(世界)は一つの小さな村なのです。気候変動に対して壁はつくれません。ある1国だけのために効率的な気候変動の政策などはあり得ません。これは世界の問題です。中国の川に行ってみてください。そこにはたくさんのプラスチックが捨てられています。さらにブラジルやオーストラリアでの大規模火災もあります。これらは全て局地的ではなく、世界的な問題です。それに我々はグローバルな形で対面していかなければなりません。
私のコンセプトは「合理的な利他主義」です。我々は自己利益に基づいているのは事実ですが、我々が利他主義になることが、我々の自己利益になるのです。ポピュリストが自己中心だというのはいいですが、1番利己的なのは利他主義になることです。本当にハッピーになるには、他者がハッピーになることです。
例えば製品を売るときには、お客さまがハッピーであってこそ、あなたの利益にかなうのです。お客さまがハッピーであれば、あなた自身がハッピーになるのです。それがポピュリズムに対する最も大事なイデオロギー的な戦いです。
日本は世界で最も「次世代への準備」が遅れている
――シンポジウムの中でアタリ氏は日本に対してもメッセージを発した。親日家でもあるアタリ氏だが、日本の現状についての受け止めは厳しい。
1970年代、(アメリカの社会学者である)エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という有名な本がありました。彼はその中で、これから何十年も日本が世界においてナンバーワンになると言ったのですが、そうはなりませんでした。
私の財団「ポジティブプラネット」では、人口、汚職の度合い、報道の自由といった47のパラメーターを用いて、全てのOECD諸国のポジティビティを測定し、その結果を公表して、国のランク付けを行っています。それぞれの国が次世代のためにちゃんと準備しているかどうかを測定しているのです。