一見会話が活発でも単なる「取引」であることがある

うわの空の聞き手
このタイプの聞き手は、会話中に脳のごく一部しか使っていない。会話をしながら無関係のとんちんかんなことを言うのは、話をろくに聞いていないからだ。次の休暇で行くバルセロナのことなど、もっと楽しい考えに気を取られている。いかにも話を聞いているようにうなずきながら、機械的にあいづちを打つ。

この人々の会話はほとんど自動操縦だが、「ボーナス」や「昇進」といった自分に関心のある言葉が出てくると、急に意識を会話に引き戻す。そうやって話をつまみ食いするので、思い違いをよくする。言った言わないのトラブルが多いのもこのタイプである。

取引する聞き手
大半の人は、このカテゴリーに収まる。会話から何かを得られそうなときに注意深くなる聞き手だ。話をよく聞くが、話し手の真意にまでは耳を傾けない。会話に参加するのはあくまで自分のためで、相手の伝えたいことではなく、自分がそうだと思ったことから意見を形成する。

このタイプの聞き手とわれわれは時間と情報の交換をしている。ただし必要なだけ、会話から何かを得たいと思うときだけだ。

会話が活発なのは無意識の取引がおこなわれている証で、費やした時間と引き換えに相手の情報を得る。このタイプは野心家が多く、天才の面倒見はそれほどよくないかもしれない。

天才の力を引き出すには、よく考えて返事をする

創造的な聞き手
創造的な聞き手は、どんな会話にもイノベーションの種を見出せる。話し手を価値ある存在と認め、相手の言葉と真剣に向き合う。しぐさや表情を観察し、その話題が相手にとってどれだけ重要かを見極める。声のトーンや、言葉の微妙なニュアンスに注意深く耳を傾ける。聞いたことを黙って咀嚼そしゃくしてから返事をする。

返事はよく考えられた自分の言葉で、機械的な受け答えではない。自分ではなく相手がどう思うかを重視している。励ましや安心感、親しみを伝えられる言葉を選ぶ。

話し手になるべく自由を与え、相手がその話題に関して最もすばらしく、また最も創意あるアイデアを思いつけるようにしている。

創造的な聞き手は、チームの天才たちとの会話から最大限のものを引き出す。天才のコミュニケーションは独特だからだ。天才は、自分をのびのびと表現できるオープンな空間で最も創造的になれる。すぐれたアイデアはこうした自由な会話から生まれる。

私の父は、ロケットが燃え尽きずに大気圏へ再突入するための公式を発見した科学者のひとりだ。父によれば、そのアイデアはカリフォルニア工科大学の元教授、レスター・リーズとの会話から偶然に生まれたという。

再突入と無関係のことを話していたとき、リーズのふとした言葉が父の心に引っかかった。父はそれを追っていくつかリーズに質問し、そこからふたりは公式の大枠を得た。お互いが創造的に話を聞いたことが発見につながったのだ。