自立は「依存先」を増やすこと

脳性まひの障害がある立場で小児科学などの研究に携わる東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎氏は、「依存先の分散としての自立」という概念を提案している。個人が家族だけに依存するのではなく、発想を変えて、家族外に依存先を増やすことを自立と考えるわけである。

川北稔『8050問題の深層「限界家族」をどう救うか』(NHK出版新書)

「共依存」という言葉がある。課題を抱えた人を、周りの人(共依存者)が過剰に支えることで、むしろ自立を妨げている状態である。しかし、親の役割から降りることができず、子どもを支え続ける親たちの姿をみてまさに「共依存」という言葉を思い浮かべる人も多いと思われる。

「他人に迷惑をかけたくない」と考えていると、依存先を家族の内側だけに限定し、やがては家族全体が孤立することになりかねない。たしかに家族だけで奮闘しているときは「自立」に向かって歩んでいる気になるかもしれないが、家族にもやがて体力の限界や寿命が訪れる。家族を支える人が減れば、誰か1人の家族に大きな負担がかかるため、「自立」を目指したはずが、特定の人への依存を強めてしまう。それよりは早めに家族以外の依存先をつくっておくべきではないだろうか。

川崎市と練馬区で起きた不幸な事件を数十年後に振り返ったとき、家族の限界を超えて新たな家族観をつくりだすきっかけとして記憶されていることを願いたい。

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